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ハクトが唇を動かし、チレの唇をゆるゆると撫でてくすぐってくる。チレは思わず口をあけてしまった。そこに相手の舌が忍びこむ。
――あ……。
舌同士、先っぽを挨拶するように触れあわされて、急に背筋がゾクゾクッときた。両腕がわなないて、チレは反射的にハクトから逃げようとした。手を振りほどこうとすると、なぜかそれを押しとどめるように、ハクトが手に力をこめる。グッと抱きよせられてチレは困惑した。
――何? この、感覚は?
胸がじゅわっと熱を持つ。それは経験したことのない心地よさだった。
舌を重ねあわせ、ハクトが形を確かめるように輪郭をたどっていく。口の中を探るように、裏表と舌全体をゆったりとこするようにする。チレの中に何があるのか知りたがって、あちらもこちらも触れてみなければ気がすまないというように。その動きに翻弄されて、チレは呼吸をするのを忘れていた。
何だかとっても気持ちいい。ずっとこうしていたくなる。あったかくて、やさしくて、くすぐったい。
うっとりとキスに酔いしれていると、しかし段々息が苦しくなってきた。離れたくない。けど苦しい。
すると、唇が急にパッと離れた。
「ふ、――うっ、ふうっ」
「はっ、はっ、はあっ」
慌てて息継ぎをしたのは、チレだけではなかった。ハクトも肩を上下させて同じようにしている。どうやらふたりとも呼吸をとめていたらしい。
「……」
ハクトは口元を拳で拭って、こちらを真剣な目で見つめてきた。
「……どうだった?」
「え?」
「魔力だ」
「あ……、はい」
「こっちに移った気はするか」
チレは首を傾げた。
「なんとなく、そんな気がしないでもないですが……。ハクト様はどうですか」
「俺も、よくわからなかった。するのが精一杯で」
ちょっと上気した表情で呟くものだから、いつもと違う顔つきにチレはドキドキしてしまった。
「ではその続きをもっとしてみてはどうでしょうか」
と提案したのは、扉の外の声だった。
そちらに目をやれば、トトと神官長がこっそりこちらを観察している。
「……お前ら」
ハクトが顔を赤くした。
「のぞいてんじゃねえぞっ」
「しかしこれはとても大切なことなので、私どもとしてもキチンと確認しなければなりませんから」
と言いつつ、ふたりのヒゲが興味でプルプル震えている。ハクトはおもむろに長椅子から立ちあがると扉まで歩いていき、大声で怒鳴った。
「今度のぞいたら焼きハムにしてやるからな!」
そしてバタンと扉をしめた。
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