11 魔力交換

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ハクトが唇を動かし、チレの唇をゆるゆると撫でてくすぐってくる。チレは思わず口をあけてしまった。そこに相手の舌が忍びこむ。  ――あ……。  舌同士、先っぽを挨拶するように触れあわされて、急に背筋がゾクゾクッときた。両腕がわなないて、チレは反射的にハクトから逃げようとした。手を振りほどこうとすると、なぜかそれを押しとどめるように、ハクトが手に力をこめる。グッと抱きよせられてチレは困惑した。  ――何? この、感覚は?  胸がじゅわっと熱を持つ。それは経験したことのない心地よさだった。  舌を重ねあわせ、ハクトが形を確かめるように輪郭をたどっていく。口の中を探るように、裏表と舌全体をゆったりとこするようにする。チレの中に何があるのか知りたがって、あちらもこちらも触れてみなければ気がすまないというように。その動きに翻弄されて、チレは呼吸をするのを忘れていた。  何だかとっても気持ちいい。ずっとこうしていたくなる。あったかくて、やさしくて、くすぐったい。  うっとりとキスに酔いしれていると、しかし段々息が苦しくなってきた。離れたくない。けど苦しい。  すると、唇が急にパッと離れた。 「ふ、――うっ、ふうっ」 「はっ、はっ、はあっ」  慌てて息継ぎをしたのは、チレだけではなかった。ハクトも肩を上下させて同じようにしている。どうやらふたりとも呼吸をとめていたらしい。 「……」  ハクトは口元を拳で拭って、こちらを真剣な目で見つめてきた。 「……どうだった?」 「え?」 「魔力だ」 「あ……、はい」 「こっちに移った気はするか」   チレは首を傾げた。 「なんとなく、そんな気がしないでもないですが……。ハクト様はどうですか」 「俺も、よくわからなかった。するのが精一杯で」  ちょっと上気した表情で呟くものだから、いつもと違う顔つきにチレはドキドキしてしまった。 「ではその続きをもっとしてみてはどうでしょうか」  と提案したのは、扉の外の声だった。  そちらに目をやれば、トトと神官長がこっそりこちらを観察している。 「……お前ら」  ハクトが顔を赤くした。 「のぞいてんじゃねえぞっ」 「しかしこれはとても大切なことなので、私どもとしてもキチンと確認しなければなりませんから」  と言いつつ、ふたりのヒゲが興味でプルプル震えている。ハクトはおもむろに長椅子から立ちあがると扉まで歩いていき、大声で怒鳴った。 「今度のぞいたら焼きハムにしてやるからな!」  そしてバタンと扉をしめた。
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