129人が本棚に入れています
本棚に追加
「まったくとんでもねえ奴らだ」
椅子に戻ってくると、怒りながら腰かける。チレは短くなったローブを膝下まで引っ張りながらたずねた。
「……で、では、続きを、するのですか?」
鼓動を早くする心臓が気になって身を竦め、上目で聞く。
「……」
ハクトがこちらに目を移し、そして視線を逸らした。眼差しは苛ついているように見える。黙ったまま落ち着きなく膝を揺らし、やがてぶすっとした調子で言った。
「続きをして、俺に魔力が戻ったら、俺とお前がしたことが、ハム人間たちにバレることになる」
「え?」
もちろんそうだろうが、バレて何か問題があるのだろうか。
「それはイヤだ」
「え? なぜですか」
「クソ恥ずかしい」
「…………」
チレは目をみはった。たしかにおおっぴらにするには憚られる行為だけれど、世界中の人が普通にやっていることだ。しかも今は魔力を戻すほうが大事だと思うが、それでも羞恥心のほうが勝るのか。
異世界人の恥ずかしさの基準がよくわからない。ハクトの言い分はまるで汚れを知らぬ乙女のようだ。それともこの人は、そういった方面ではまったく純真な童貞なのか。未経験なのはチレも同じだが、こちらは三百余年生きてきた知識の積み重ねがある。だからハクトほど繊細でもなかった。
「そうでございますか。では、どうしましょう?」
ハクトの顔はまだ赤らんだままだ。
「とにかく、キ……キスだけで、すむのなら、それで解決するわけだから、当分、そっちを試せばいいだろ」
「そうでございますね」
ほんのちょっぴり残念な気持ちがわいたのは気のせいだろうか。
そのとき、チレはまったく別のことを思いついた。
「もしかして、ハクト様は私が男だからイヤなのでしょうか?」
異世界人もルルクル人も恋愛対象は異性が一般的だ。
「え?」
ハクトがキョトンとする。そのままの顔でチレを見つめ、首を傾げて思案した。
「……いや、どうだろ。それは……別に……」
そして悩んでいる自分に驚いたように、目を瞬かせる。
「別に、いいだろ。そんなことは。どうせ男でも女でもやることは大体同じなんだし」
急に機嫌を悪くしたように立ちあがると、大股で寝室のほうへといってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!