129人が本棚に入れています
本棚に追加
「疲れた。ちょっと昼寝する。邪魔するんじゃないぞ」
言い残して、ベッドに潜りこむ。そのままモゾモゾと身じろぎし始めたので、チレは邪魔をしないように、控え室へと引きあげた。
「あ、元に戻してもらうのを忘れていた」
異世界人のままだったことに気づいて寝室に引き返す。
「ハクト様」
と声をかけたが、上がけの中のハクトが動く気配はない。仕方なくチレはヒトの姿で控え室に戻った。
チレがすごす狭い部屋には、壁に鏡がかかっている。毎朝身だしなみを整えるために使うその鏡を、しゃがんでのぞきこんだ。
鏡面には不思議な姿の青年が映っている。
肩まで伸びた栗色の髪、大きな焦げ茶色の瞳、ぷにっとした赤い唇。そして華奢な肢体。この姿が上級品なのかそうでないのか、チレの異世界人判断基準を持ってしてもよくわからない。
「自分のことって、客観的に見られないものなんだなあ」
両手で頬をさすってみたり、引っ張ったりしてしげしげと眺めたりした後、ローブをまくりあげて、足の間にぶらさがったものを見つめる。
「うっ……これは可愛くない」
やっぱりルルクル人の姿のほうがいいやと、密かに呟いたチレだった。
最初のコメントを投稿しよう!