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12 魔力交歓
***
その日からチレとハクトは、毎夜、寝る前にキスをすることになった。
「少しずつ慣れていけば、魔力が移行してるかどうかもわかるだろうしな」
「そうでございますね」
薄暗い夜の寝室、ハクトのベッドで、ヒトになったチレが隣に腰かける。
夜寝る前にキスをすると決めたのは、昼間だと何かと邪魔が入るからだった。精神統一をして魔力を移動させるため、ふたりきりで行おうとハクトが提案した。チレは聖女の頼みに意見できる立場ではないので、命じられれば従うのみだ。
「べ、別に、俺はお前としたいわけじゃないからな。けど、何をするにも慣れっていうのは必要だし」
「そうでございますか」
したいわけじゃないとはっきり言われて、心の隅っこがちょっとへこむ。
「じ、じゃあ、するぞ」
「はい。どうぞ」
「うし」
かけ声をかけて姿勢を正す。チレも背筋を伸ばして目をとじた。
ハクトの唇が優しく触れて、舌がそうっとうかがいながら侵入してくる。その温かくやわらかな感触に、チレは背筋をゾクゾクさせた。
「……ん」
魔物退治をするときは、チレを魔物よりもおどろおどろしい生き物に変身させて好き勝手に扱うくせに、キスするときはとても丁寧で、細心の注意を払って口の中に入ってくる。その差異にチレは戸惑った。
――この人の性格は、本当によくわからない。
何度か深く舌を絡めた後、唇が離れると、ハクトが少し荒くなった呼吸でたずねてくる。
「どうだ? 魔力が減った感覚はあるか?」
「……何となく、減ったと言われればそんな気もします」
「俺もだ。増えたような気がしないでもない」
ふたりで首を捻りつつ話をした。
「しかしハクト様、こんなによくわからない方法では、魔力をすべてお返しするのに何年かかるかわかりませんよ」
「まあそうだな。けど俺は別に、今のままでも構わないし。お前を進化させて戦うのも面白いっちゃ面白いし」
今のままでいいのなら、キスする必要はないのでは? と思ったが口には出さないでおいた。
「では、魔力を一気に戻す方法は、とるつもりもないのでございますね」
チレの問いに、ハクトは「む」と唇を引き結ぶ。
「そういう大事なことは、もうちょっと慎重に考えてから、することにする」
らしからぬ真面目な口調で、目元を朱に染めたまま答えた。
「そうでございますか」
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