1 聖女召喚

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「セットじゃないなら、どっかに運ばれた? 眠らされて」  ブツブツ呟いて、心配げに見守る神官に向き直る。 「ここ外国?」 「え。ええ?」 「てか、うざいなお前らその恰好」  神官のひとりの肩を掴んで、また持ちあげる。そしてブンブン振り回した。 「ひやああああ」 「脱げよ、このかぶりもの」 「かぶりものではございませんっ」 「何言ってんだ、このネズミのぬいぐるみどもが」 「ネズミでも、ぬいぐるみでもありませんっ」  聖女が手を離したので、神官はゴロゴロと吹っ飛んだ。それを仲間が助け起こす。 「我々は、このような姿をしているのでございます。あなた様から見れば非常に奇妙かも知れませんが、我々は、ルルクル人という人種なのです」 「はあ?」  盛大に疑問符を吐いて、聖女が皆を見おろした。彼の目の前には、怯える背の低い動物が見えていることだろう。歴代の聖女も、まずチレたちの外見に驚いた。  ルルクル人は、彼らの目には『大きなハムスター』として認識される見た目をしている。異世界人の三分の一ほどの背丈に、全身が獣毛に覆われたふわもこな姿。頭の上に生えた耳と小さな瞳。過去の聖女は皆、この姿に最初は驚いたものの、しかし慣れれば可愛らしい姿と愛でてくれるようになった。 『ペットみたい』 『ほわほわでぬいぐるみのよう』 『癒やされるわ。抱っこして寝た~い』  と言ったものだった。  だが。 「きっしょ」  当代聖女は顔を歪めて言い放った。 「ネズミの国とか。趣味悪すぎ。ドッキリなら他でやって。主催者訴えるよ?」  苛立たしげに髪をかきあげ、大きくため息をつく。 「遅刻確定じゃん」  呟いてまた鋼の板を取り出した。 「連絡だけは入れとかないと」  指先でチマチマ叩き、ふとその指をとめる。 「……圏外?」  訝しげにもらして顔をあげた。周囲を見渡し、不思議そうな顔のまま、また薄い板に向き直る。 「メッセージが飛ばない。なんでや」  聖女は目の色を変えて板を中指でこすりはじめた。何度も表面をこすって、そのうち絶望的な表情になる。 「なんでや」  聖女の声が震えだしたのを見て、神官らにも戸惑いが広がる。この後にくる事態を、ここにいる皆が過去に経験ずみだったからだ。 「どういうことなん?」
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