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17. ルイス王子の朝帰り
まぶた越しに太陽の光を感じて、ゆっくりと目を開ける。
天井の模様は木目しかなく、シャンデリアもない。
ルイス王子はぼんやりとした頭で現状を理解しようと努めた。
「起きたか」
荒っぽい女の声に慌てて起き上がり、声の主がいる方に顔を向ければ、簡素な部屋にパンツ一枚の姿で上半身を露わにしているアルタンが立っていた。
ルイス王子は寒気がして自分の肩を抱きしめると、自分も上半身が裸になっている事に気が付く。
「……ままままさか……」
「夜は激しいんだな」
ルイス王子は目を瞑ってもう一度ベッドに倒れ込んだ。
その様子を見てアルタンは大笑いしている。
「ルーズ、お前泥酔して嘔吐したんだよ。汚れた服は洗って干してる。ベッドまで担いで連れてくの大変だったんだ」
「え?」
再度起き上がり、部屋をちゃんと見れば確かに自分の服が干されていた。
アルタンはテーブルに置いていた甲冑を身につけながら、楽しそうに話している。
「安心しろ。私達の間には何も起こっていない」
「じゃあなんでアルタンは裸だったんだ?」
「装備のまま寝れないだろ」
「だからって男の前で裸はまずいだろ」
「お前を男と思っていない」
「は?」
ルイス王子は額をおさえて溜息をついた。
「ルーズ、泥酔したお前は本当にタチが悪かったぞ。ずっと想い人の名を呼んでた。お前に愛されたら相手はだいぶ重いだろうな」
「シルビアの事を話してたのか?」
ルイス王子は記憶がない自分が何を語っていたのか怖くなる。
「シルビア? 誰だ?」
「え? 想い人って言うから」
「ずっと兄上、兄上って言ってたんだよ。お前、どんだけブラコンなんだよ」
「ああ、なんだ、兄上か。別にそんなんじゃないよ」
「お前、まだまだ心はおこちゃまなんだな」
「は?」
アルタンは着替え終わり、ベッドの上に飛び乗ると、あぐらをかいてルイス王子を見た。
「お前は心が不健康だ。だからそんなに顔も肌も青白いんじゃないか? いつか私の暮らすハイステップに来い。雄大で美しい草原を馬で駆けたら気持ちが良くて健康になるぞ。案内してやるから」
「だからハイステップは国交がないから行けないだろ。アルタンが不法滞在でここにいるんだよ」
「内緒な」
「おい」
二人で宿を出ると、太陽の下で見るアルタンは昨晩とは印象が違った。
背は高く、筋肉量は多いが、見方によってはスタイルがかなり良いとも言える。そして豪快によく笑う彼女は、夜の月明りよりも、断然太陽の下の方が似合っていた。
ルイス王子は歩きながらアルタンを見て、思わず笑ってしまった。彼女を見てると、不思議と心が晴れる。
「急に笑って気持ち悪いな、お前」
アルタンは横で笑うルイス王子を訝しんだ目で見た。
ルイス王子はアルタンと目が合い、また笑う。
「あー、まだ酔っぱらってる」
アルタンは自分の馬を見つけると、馬繋ぎの環金具に繋げていた手綱をほどき、騎乗した。
ルイス王子は少し名残惜しそうに声を掛ける。
「また会えるかな?」
「ああ、社交シーズンとやらが終わるまでは滞在する予定だ。だから、この酒場でまた会おう」
それだけ決めて、いつとは約束はせず、二人は別れた。
ルイス王子は王宮に戻るとすぐに使用人に湯船を準備させて湯に浸かった。身体を洗い、温めながら、昨晩の事を思い出そうとする。
「うーん……」
ルイス王子はまったく思い出せなかった。
でも、ここ最近で一番笑ったかもしれない。親友と出会った気分だ。もしかしたら、アルタンとは本当に親友になれるかもしれない。そう思うと、また自然と笑みがこぼれた。
ルイス王子は湯船から上がり、仕立ての良い貴族の服に着替えていると、部屋にルイーザ王女が訪ねてきた。
最後の前ボタンを慌てて留め、ルイーザ王女を部屋の中へ通す。
「ルイス、朝帰りは感心しないわ」
「すいません。王都の酒場で飲みすぎてしまい、そのまま宿に泊まりました」
ルイーザ王女からの小言は予想はしていたが、案の定お叱りを受けた。
「王太子殿下が目覚めないまま、間もなく社交シーズンが始まります。国王陛下か王太子殿下のどちらかが目が覚めるまでは、あなたが国王代理です」
「え? 私ですか?」
「何を言ってるの、当たり前でしょう。だからしばらくは勝手に一人で王都に行くことはないように」
ルイス王子はそんな事になるとは露ほどにも思っていなかった。
そして、今夜はどうやって王都に行くか早速考えていた。
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