26. 責務と愛

1/2
前へ
/52ページ
次へ

26. 責務と愛

 夜は酒場の二階にある宿屋の一室で、酒を飲みながら議論したり、腕相撲をして遊んだりするのがルイス王子の日課だった。 「あーッ! 負けた」 「ルーズ、お前いつも負けて、どんだけ貧弱なんだよ」  今日もルイス王子は腕相撲でアルタンに負けた。 「さあ、今日は何を差し出して貰おうか」  アルタンが手のひらを差し出して、指をクイクイと曲げ伸ばししている。  ルイス王子は椅子に引っかけていたショルダーバッグをそのまま机の上に置いてアルタンに差し出した。 「バッグ? これごと?」 「ああ、開けてみて」  アルタンがショルダーバッグを開けて中を確認すると、何冊もの帳簿が出てきた。 「私が婚約をしようとしている令嬢の家が密輸の元締め、元凶だ。毎日令嬢と会って話を聞き出し、裏帳簿の在り処を見つけて取って来た」 「ルーズ……お前、そんな女と結婚して大丈夫か?」 「政略結婚は私の務めだ」 「お前……」  アルタンに見つめられると心を見透かされそうで、ルイス王子は思わず視線を逸らした。 「危険だったろ? 本当にありがとう」  アルタンにそう言われるだけですべてが報われる。彼女からの言葉でやっとまた視線をアルタンに向けることが出来た。 「いいんだ。アルタンの役に立てたなら」 「これでオーバーランドの国王に謁見の申請が出来る」 「申請はしなくていい。私が君を国王代理である兄に会わせてあげるから」 「国王代理の兄?」  アルタンは首を傾げた。 「アルタン、私の名前はルーズじゃなくてルイスだ。この国の第二王子だよ」  きっとアルタンは飛び上がって驚くに違いない。ルイス王子はそう思っていたのに、彼女が見せたものは全く違う反応だった。アルタンはとても冷静な様子でルイス王子を真っ直ぐに見つめている。その雰囲気はとても重々しい。 「オーバーランドのルイス王子だったか……」  アルタンは立ち上がり、私の前まで来た。 「ルイス王子、ハイステップの代表アルタンに、お前の兄と会う機会を作って欲しい」 「もちろんだ。その代わり条件がある」 「何だ?」  ルイス王子はアルタンを愛おしそうに見つめながら、彼女の両手をとった。 「ずっと親友でいてくれ」  アルタンは唖然としてルイス王子を見た。 「何言ってるんだ? 当たり前だろ。そんなのが条件になるわけない」 「え」 「馬鹿かお前」 「ああ、ごめん」  ルイス王子ははにかんでしまう。嬉しくてたまらないのだ。アルタンは自分が王子だと打ち明けても態度をまったく変えずに悪態までついてくる。本当に親友になれたのだと、これから先もずっと彼女と繋がっていられるのだと実感していた。 「あとでいいからちゃんとした条件だせよな」 「いや、これ以外望みはないから」 「だめだ。これは取引だ。国同士の取引として相応しい対価を考えておけ」 「国同士って、大げさだな」 「おいおいルーズ、私は命を懸けて国の代表としてここまで来ている!」 「そ……そうか。わかった。考えておく」 「よし! じゃあ、いつ会わせてくれる?」  ルイス王子は暫く考えた。 「なるべく早く会わせないと裏帳簿が盗まれている事に気づかれてしまうから……明日の夜、少し遅くなるが、ここまで迎えに来る」 「夜遅くか?」 「ああ、明日は兄が主催する大事な舞踏会で、始まりは私もいなくてはならない。どこかで抜け出して迎えにくる。舞踏会は一晩中行われるから、夜遅くの方が兄も都合がつくはずだ」 「わかった。では明日、ここで」  
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加