27. 思いもよらない提案

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 ここは王宮にいくつもあるドローイングルームの一室。そこに、私、アロイス、ルイス、ラヴィニア、そしてマーレーン伯爵がソファに座っている。 「アロイス王太子殿下、しばらくお見掛けしないと思っていましたが、ご成長されたようで何よりです」  マーレーン伯爵は余裕の笑みを浮かべており、明らかに何かを企んでいるのがわかる。 「なぜ部屋を移動させた?」  アロイスは怪訝な表情を見せている。ルイスを見れば、彼は何故かずっと目を伏せていた。 「いえね、養女(むすめ)のシルビアとの養子縁組を解消しようと思いまして」  これには私も初耳で唖然とした。それはつまり……。 「シルビアは婚約者としての基準から外れる事になりますので、このまま婚約破棄の手続きに移らせてください」 「何を言ってるんだ!!」  アロイスは勢いよく立ち上がり、珍しく声を荒げた。 「シルビアとはこのまま婚約を維持し、結婚をする。婚約破棄などしないっ!」  アロイスの言葉にマーレーン伯爵は薄ら笑う。 「だめですよ。王太子の立場でルールを破っては。あなたには生まれた時から大きな責務と立場があるでしょう」 「こんなくだらないルールは変えてやる」 「貴方は良くても、自分の欲でルールを曲げたら国民に示しがつきませんし、どのみち周りも許さないでしょう。それを曲げて結婚しても、今度は二人の間に生まれる子供が罵られ不遇な目にあうのが目に見えている。王族、貴族の結婚は愛だけでは出来ないのですよ」  部屋の中は一触即発の空気がピリピリと流れていた。 「さて、シルビアですが、養子縁組を解消したらどうなるでしょう?」  マーレーン伯爵が質問をしてきた。 「生家に戻るのだろう」  アロイスは怒りを必死に抑えながら、低い声で答えている。 「そうですね。だが婚約前の状態には戻らない。王太子と婚約破棄をした令嬢など、恐ろしくて誰も嫁には欲しくない。彼女はいずれ修道院へ行くでしょう」  私としてもアロイスとの婚約破棄は絶対に避けたいが、万が一破棄されて修道院に行く事になっても、元々行くと決めていた場所。特にそこに関しては私に動揺はない。 「修道院も色々ありましてね。令嬢が行く修道院は、入る際に寄付金が居る。寄付金のいらない修道院となれば環境は……わかりますよね?」 「何が言いたい」 「私は彼女に寄付金など出さない。ウェリントン家も出せるわけがない。なので、婚約破棄となれば、彼女の残りの人生は劣悪な環境で、王太子に捨てられた傷物として一生を過ごすのです」  アロイスが腰に差した剣を一気に引き抜く音が部屋に響いた。剣の先はマーレーン伯爵の喉元にあてられている。 「お父様っ!!」  ラヴィニアが口に両手をあてて慌てふためいている。 「不敬罪でこの場で処分してやる」  アロイスの怒りは頂点だった。  マーレーン伯爵は冷や汗をたらし震えながらも、笑みを浮かべてアロイスを見る。 「殿下、剣を鞘にお収めください。私とてシルビアの行く末を考えており、もう一つ案があります」 「遺言として聞いてやる」 「ルイス王子にシルビアと婚約させてください」  余りにも突拍子もない提案にアロイスも私も言葉が出なかった。
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