32. テラスでの会話

1/2
前へ
/52ページ
次へ

32. テラスでの会話

 ゼキが、準備の整った滞在用の部屋へと案内をしてくれている道中で、とても広い中庭が見えてきた。そこには見たこともない大きさの巨樹が立っており、皆目を疑いながらその巨樹を凝視した。  ここにいる全員であの木の幹に抱き着いても、一周分には足りないだろう。こんな岩山でも木があんなにも立派に育つなんて驚きである。 「ああ、やはり陛下はあちらにいらっしゃいました」  ゼキが指を指す方向に、巨樹を見上げるバラド国王がいた。その後ろには赤と青の王の手二人が控えている。  どうやらバラド国王が先に王宮内に入っていったのは、ここに向かいたかったからのようだ。  私はゼキに聞いてみた。 「ゼキ様、バラド国王はあそこで何をしているのですか?」 「陛下は王宮に戻ると最初にあそこに向かい、シャラト王妃に帰って来たと報告をしているんです。あの巨樹は岩山の隙間を通って大地に根を張っています。シャラト王妃を埋めた大地と繋がっているんです。ちなみにあのサイズなので、根もかなりの長さだと思いますよ」 「バラド国王はシャラト王妃をまだ想っていらっしゃるんですね……」 「ん-……かつてはあの巨樹を通してシャラト王妃の思い出を拠り所にされていたのは事実ですが、今は少し違って、帰宮の際の習慣化してしまっているのと、どちらかというと許しを乞うてる感じですかね」 「許しを乞う?」  ゼキと話していると、バラド国王がこちらに気づいて近づいて来ていた。 「先に王宮内に行ってしまい、すまなかった。早速アウルムの炭鉱について話したいのだが、今から何処かに行くところか?」  バラド国王の質問にゼキが答えた。 「皆様をそれぞれの客室へご案内するところでした」 「そうか、それなら炭鉱の話をしてからでいいだろう。全員眺めの良いテラスに案内してくれ」 「承知いたしました」  テラスに案内されると、そこから見えるアウルムの赤い大地と、岩山に造られた街並み、空に浮かぶ熱気球の景色がとても美しかった。日差しの強い国だが、王宮には心地良い風が吹き抜けるので、外気に触れながら話し合うのはとても気持ちが良い。 「ゼキ、アウルムの石炭を準備してくれ」 「承知いたしました」  ゼキは一度席を離れ、暫くすると使用人を二人従えて戻ってきた。  使用人は二人とも容器を持っており、ゼキが容器を持った使用人にテーブルの上に容器を置くように指示をする。  片方の容器に火打ち石と打ち金を打ち鳴らし、中に入れられていた火口に着火させ、枯草などを燃やす。そしてもう一つの容器から石炭を取り出して火の中に入れた。普通に石炭を燃やしているだけの作業をただじっと皆で見ている。これに何の意味があるのだろうか?  だが、ゼキを見れば、得意げな顔をして微笑んでいる。バラド国王も然り。  すると石炭から急に青い炎が舞い上がり始めた。炎からは離れた位置で座っているのに、すでにかなりの熱風が風に乗って顔にあたる。あまりの熱さに顔を背け、椅子を下げた。  ゼキがやっと説明を始めた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加