37. 星の間の裁判

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裁判長が刑を言い渡す。 「密輸罪、関税法違反、そして王太子殿下への不敬罪として、マーレーン伯爵より爵位の剥奪並びに領地と財産の没収を決定する」 「何だと!?」  アロイス王太子は一通の書類を出し、大司教へ渡したあと、マーレーン伯爵に言い放つ。 「爵位剥奪により王家との結婚資格喪失という事で、ラヴィニア嬢との婚約破棄を宣言する。お前はシルビアではなく、実の娘が劣悪な環境の修道院に行くことを心配しろ。連れて行け」  マーレーン伯爵はユルゲンによって兵士に引き渡され、地下牢へと連れて行かれた。ラヴィニアはアロイス王太子の元に駆け寄り、潤ませた瞳を向けながら懇願した。 「殿下、私は父の悪行は何も知りませんでした。むしろ被害者です。ずっと殿下だけをお慕いしていたのに、父の命令でルイス王子と婚約させられそうになったり、ずっと我慢を強いられ辛い思いをしてまいりました。私が愛しているのは貴方だけ。どうか、お慈悲を」  アロイス王太子の額には青筋が立ち始めた。 「何だと……? 私の弟との婚約は不満か? お前なんかとルイスが書類上だけでも婚約者にならずに済んで本当に良かった。おい、ユルゲン! この女も不敬罪で投獄しろ」 「アッ、アロイス王太子殿下? ちょっと待ってください——」 「待たぬ! ルイスを傷つけ、私の大切なシルビアの心と身体も傷つけていたお前たちに同情の余地はない!!」  ラヴィニアも兵士に連れ出され、マーレーン伯爵夫人は後を追って星の間を出て行った。  星の間は騒然とし、貴族達の声で溢れていたが、その中にアルタンの良く通る声が響く。 「王太子、ハイステップの証人と証拠でマーレーンを追い詰めた。よって取引は開始しているものとする」  星の間は一気に静かになり、皆アルタンに注目していた。アロイス王太子は、アルタンがこの大勢の前でどんな要求を突き付けてくるか少し心配だった。 「女王陛下の御協力に心から感謝申し上げる。しかし、取引内容を聞く前に承諾は出来ない」 「王太子ではなく、ルイス王子がしたくなるさ」 「ルイスが?」  アロイス王太子はルイス王子を見るが、ルイス王子もアルタンが何を言い出すのか見当もつかず、首を横に振っている。 「国交を結ぼう」  アロイス王太子は目を見開く。 「そ……それは……喜ばしいことだ」 「では、これから結ばれる両国の固い結びつきの象徴として……」  アルタンはルイス王子に振り向き、真っ直ぐに見つめた。 「ルイス王子にはハイステップ連合王国の女王の王配になって貰いたい」  ルイスは言葉が何も出てこなかった。頭は真っ白になり、アルタンしか見えていない。  アルタンは視線をゆっくりとルイス王子からアロイス王太子に戻す。 「これが、マーレーンを追い詰めた手助けの取引条件だ。そちらはすでに受け取ったのだから、もちろん承諾するものと思っている」  アロイス王太子は、思わず笑ってしまった。先程ルイスとシルビアの婚約が白紙に戻ったとはいえ、万が一ルイスがまだこの国の貴族と婚約していても、それを破棄させてハイステップの王配にするだけの理由になる。しかも、ルイスの様子だと、あいつはアルタンに心底惚れている。最高の縁談だ。  アルタンにはマーレーンの件で助けられ、ルイスの結婚まで周りを納得させるうまい理由を持ってきてもらった。 「女王陛下のお申し出に心から感謝し、両国の絆の象徴となるよう、我が国の第二王子ルイスが女王陛下を生涯支えます」  アルタンはアロイス王太子に笑みを見せる。 「英断だ。では、後ほど国交と婚約諸々の手続きを。ドローイングルームで待たせてもらう」  アルタンはそう言うと、颯爽とベールをなびかせながら歩き出し、従者を引き連れて部屋を出て行く。去り際にはルイス王子を流し見て、バチッとウインクした。  星の間は次から次へと起こる前代未聞の事態に湧きあがっていた。さすがにこれ以上の驚きはないと皆が話していると、一人の貴族が窓の外を指差して声を上げる。 「おい、何だ、あれ」  一階にある星の間から窓の外を見ると、空に浮かんだ何かがこちらに向かって飛んで来ている。その姿がしっかりと捉えられるようになると、貴族達は興奮し始め、ついには星の間を飛び出して中庭へと向かい始める。  アロイス王太子を始め、ルイーザ王女やルイス王子も何事かと貴族達と一緒になって中庭へと出て行く。 「空飛ぶ船だ!」  貴族の一人が大きな声を上げた。空には楕円形の物体が三つ浮かんでおり、こちらを目指してきているようだった。  アロイス王太子とルイス王子は楕円形の物体の柄がアウルム国の気球と同じであることに気が付く。  ルイス王子は目を丸くして声に出す。 「まさか、シルビアとジルベールはこんなものを?」  楕円形の気球船は徐々に高度を下げ、王宮の中庭に降りてきた。船の下部にあったカゴの中から、人が降りて来る。  貴族達は空いた口が塞がらなかった。こちらに向かって歩いてくるのは、どう見てもあのウェリントン兄妹。そして浅黒い肌をした異国の者達。 「大変お待たせいたしました。ジルベール・ウェリントン、並びにシルビア・マーレーンが戻りました」
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