70人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
「俺のこと、カノルって呼び捨てにしてもらえませんか? あと、もっと気楽に話してもらいたいです」
「え……でも、カノルさんは敬語ですし……」
「俺はこっちのほうが楽なんです」
「じゃ、じゃあ……タメ口で話すね」
「一度、名前を呼んでくれませんか?」
「……カノル」
「ありがとうございます。俺も、弓治って呼んでいいですよね?」
呼び捨てにされた瞬間、夢の中で聞いた、「弓治のこと、大切にしますよ」という甘ったるい声が、頭の中で響いた。
「うん……いいよ」
顔を赤く染めた弓治を見つめる瞳が、満ち足りたように細められた。
◇
その日の夜、また、カノルの夢を見た。
前回と同じく、二人掛けの椅子に隣り合って座っていた。
部屋全体へ意識を向けても、夢だからか、どんな家具が置かれていて、どんな部屋なのかわからない。靄がかかったように見えなかった。
「今日、弓治に会えて嬉しかったです」
柔らかな表情で、カノルが弓治の顎を持ち上げた。
すぐに端正な顔が迫ってくる。ゆっくり、唇が押し付けられた。
自然と目を閉じて、彼の唇を受け入れる。角度を変えて何度もキスをされると、頭の芯が甘くとろけた。
前回と同じことをする夢だと思った。が、弓治の後頭部に手を回したカノルが、舌を唇に差し込んだ。びっくりして固まる弓治の口内をかき回した後、舌に絡みついた。
「ん……っ」
思わず鼻にかかった声が漏れてしまい、全身が熱くなる。舌にまとわりつかれて、どうしていいのかわからなかった。
「舌、出してください」
至近距離で囁かれて、息が肌を撫でた。
弓治は戸惑ったように瞳を揺らした。
これは、俺の欲望を具現化した夢なんだろうか。もしそうだったら、夢でくらい欲望に従ってもいいよな。
遠慮がちに出した舌に、カノルが舌を絡める。くちゅくちゅと音を立てながら、舌を絡ませ合った。
舌が離れる頃には、初めて経験する甘美な刺激に、弓治は顔をとろんとさせていた。
「すごく可愛い顔してますよ……その顔、俺以外には見せないでくださいね」
「しないよ……こういうこと、俺、したことないから……」
「あの友達ともですか?」
綺麗な瞳に、探るような色が滲んだ。
ぼんやり考えた弓治は、ケミーのことを言ってるのだとわかり、首を振る。
「うん、しないよ……ケミーはただの友達だし……」
「それなら、俺は弓治の友達以上の存在ですね」
嬉しそうな声で囁いた彼が、甘えるように、唇を軽く吸ってきた。
そうだ。カノルは特別な存在だ。彼とキスをしたり、舌を絡めたりすると、幸せな気分になる。
やっぱりもう、好きになってる。こんな夢をみてしまうくらい、俺はカノルを想っている。
目をそらしていた気持ちに、夢の中なら向き合えた。
「ここ、硬くなってますね。興奮してくれて嬉しいです」
「……っ!」
彼の手が、服の上から体の中心に触れた。ゆっくりさすられ、指先でかりかりと引っ掻くようにされた弓治が、吐息を震わせた。
カノルが下着の中に手を入れて、勃っているそれを、服の外へ出した。
彼に見られてしまい、羞恥心で耳まで熱くなる。
輪郭をなぞるように動いた指が、絡みついてきた。しっかりと握って、手が上下に動き始めた。
「んっ……っ……カノル……っ」
「そんなに緊張しないでください。大丈夫。俺に任せていれば、気持ち良くなりますから」
耳元で喋られると熱い吐息が触れて、ぞくぞくした。
最初のコメントを投稿しよう!