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「俺のこと、カノルって呼び捨てにしてもらえませんか? あと、もっと気楽に話してもらいたいです」 「え……でも、カノルさんは敬語ですし……」 「俺はこっちのほうが楽なんです」 「じゃ、じゃあ……タメ口で話すね」 「一度、名前を呼んでくれませんか?」 「……カノル」 「ありがとうございます。俺も、弓治って呼んでいいですよね?」  呼び捨てにされた瞬間、夢の中で聞いた、「弓治のこと、大切にしますよ」という甘ったるい声が、頭の中で響いた。 「うん……いいよ」  顔を赤く染めた弓治を見つめる瞳が、満ち足りたように細められた。   ◇  その日の夜、また、カノルの夢を見た。  前回と同じく、二人掛けの椅子に隣り合って座っていた。  部屋全体へ意識を向けても、夢だからか、どんな家具が置かれていて、どんな部屋なのかわからない。靄がかかったように見えなかった。 「今日、弓治に会えて嬉しかったです」  柔らかな表情で、カノルが弓治の顎を持ち上げた。  すぐに端正な顔が迫ってくる。ゆっくり、唇が押し付けられた。  自然と目を閉じて、彼の唇を受け入れる。角度を変えて何度もキスをされると、頭の芯が甘くとろけた。  前回と同じことをする夢だと思った。が、弓治の後頭部に手を回したカノルが、舌を唇に差し込んだ。びっくりして固まる弓治の口内をかき回した後、舌に絡みついた。 「ん……っ」  思わず鼻にかかった声が漏れてしまい、全身が熱くなる。舌にまとわりつかれて、どうしていいのかわからなかった。 「舌、出してください」  至近距離で囁かれて、息が肌を撫でた。  弓治は戸惑ったように瞳を揺らした。  これは、俺の欲望を具現化した夢なんだろうか。もしそうだったら、夢でくらい欲望に従ってもいいよな。  遠慮がちに出した舌に、カノルが舌を絡める。くちゅくちゅと音を立てながら、舌を絡ませ合った。  舌が離れる頃には、初めて経験する甘美な刺激に、弓治は顔をとろんとさせていた。 「すごく可愛い顔してますよ……その顔、俺以外には見せないでくださいね」 「しないよ……こういうこと、俺、したことないから……」 「あの友達ともですか?」  綺麗な瞳に、探るような色が滲んだ。  ぼんやり考えた弓治は、ケミーのことを言ってるのだとわかり、首を振る。 「うん、しないよ……ケミーはただの友達だし……」 「それなら、俺は弓治の友達以上の存在ですね」  嬉しそうな声で囁いた彼が、甘えるように、唇を軽く吸ってきた。  そうだ。カノルは特別な存在だ。彼とキスをしたり、舌を絡めたりすると、幸せな気分になる。  やっぱりもう、好きになってる。こんな夢をみてしまうくらい、俺はカノルを想っている。  目をそらしていた気持ちに、夢の中なら向き合えた。 「ここ、硬くなってますね。興奮してくれて嬉しいです」 「……っ!」  彼の手が、服の上から体の中心に触れた。ゆっくりさすられ、指先でかりかりと引っ掻くようにされた弓治が、吐息を震わせた。  カノルが下着の中に手を入れて、勃っているそれを、服の外へ出した。  彼に見られてしまい、羞恥心で耳まで熱くなる。  輪郭をなぞるように動いた指が、絡みついてきた。しっかりと握って、手が上下に動き始めた。 「んっ……っ……カノル……っ」 「そんなに緊張しないでください。大丈夫。俺に任せていれば、気持ち良くなりますから」  耳元で喋られると熱い吐息が触れて、ぞくぞくした。
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