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瀬尾が珍しく侘び寂びを味わいたいと言い出した。「先に言えよ」悪態を吐きながら電話で確認すると抹茶のお手前体験の予約が取れた。然し乍ら瀬尾は侘び寂びを味わうどころか大恥をかいてしまった。
「し、痺れったぁぁぁ!」
赤い毛氈の上で転がり回る姿は見ものだった。それを横目に辰巳と島崎は日本庭園を眺める廊下で座禅を組んでいた。この庭園は兼六園を凝縮したと称される見事な造りだ。
「安らぎますね」
「あぁ、あれがなければな」
鮮やかな錦鯉の尾鰭が揺らぐ池は二重、三重に高低差が施されそれが緩やかな滝を作った。
「あれが無ければなぁ」
傾き掛けた夕日に瀬尾の苦悶の声が響いた。
金沢武家屋敷跡 野村家
金沢市長町1丁目3−32
「あっ、あれ食べましょうよ!」
野村家で侘び寂びを満喫した4人は屋敷の斜め向かいに建つこぢんまりとした和菓子の店に入った。暑さに疲れた首筋に絡み付く冷気に癒された。
「なんだこりゃ」
長年金沢市に住んでいた大智も初めて口にするそれは冷たい草餅のようで歯応えはういろうに片栗粉を混ぜ込んだような食感、生麩だった。
「あ、こし餡が入っていますね!」
「金沢市民のこし餡好き率は高いからな」
「不思議な食感ですね」
島崎はすっかり気に入ったらしく奥さん宛に宅配便を発送していた。
菓遊庵
金沢市長町2丁目2ー38
生麩
「さて、甘味も補給、明日に備えますか!」
今夜はその時の為の資料作成。明日、島崎は不倫相手の女性の家へ。辰巳は吉高を仙石の家に誘い出し、大智と瀬尾は吉高の勤務する病院の学会に潜入する。
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