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大宮駅ホームの混雑具合を横目に瀬尾はパチンパチンと駅弁のゴムを摘んでは弾き始めた。
「なんですか、お行儀の悪い」
コンビニエンスストアで購入したビールは汗をかき雫が垂れ始めている。
「駅弁食おうぜーーービールも温くなるだろ」
「まだ10:00過ぎですよ」
「此処から2時間50分で到着、早く食べないとラーメンが腹に入らないだろ」
「ら、ラーメン!?」
これまた目を輝かせた島崎がグルメスポットのページを開いてみせた。
「瀬尾さん、これですね!これ!」
「そうそう、8番らーめん。石川県民のソウルフード、美味そうじゃん」
「ラーメン、何処にでもありそうですが」
「スープが甘いそうですよ!」
瀬尾と辰巳は顔を見合わせた。
「スープが甘ぇの?」「甘い、スープ」
3人は微妙な顔付きになった。甘いラーメンは想像も付かない、しかもどの程度甘いのか戦々恐々である。
「如何する、三等分して食べるか?」
「恥ずかしい」
「そうですよ!スーツを着たいい年齢の男3人が一つの丼を囲むなんて貧乏くさいです!」
「ガッツリ残すのも失礼じゃないか?」
「そうですね」
携帯電話で検索し、野菜増しの小さいラーメンの存在を知った3人は「これにしよう」と指差し確認、この案件は落ち着いたかと思われた。然し乍ら後にこの選択が誤っていた事を痛感する。テロテロした幅広麺に絡みつく軽く炒めたキャベツともやしは想像の斜め上を行き野菜の味が活きていた。それは噛めば噛むほど甘味が増した。
プシューー とうとうホームの扉が閉まった
「あ、この曲」
北陸新幹線の車内チャイムの音は谷村新司の<北陸ロマン>何処となく寂しい曲調でなにやらしんみりしてしまったが辰巳の周囲からブツブツお経が漏れ聞こえてくる。
「ちょ、なに歌ってんだよ」
「谷村新司好きなので」
「やめろって、怖いから」
車窓に流れる景色は長野の眩い緑を越えると長く暗いトンネルに入りそれは延々と続いた。
「トンネルばっかりだな」
「山脈に穴を開けたんですからそうなりますよ」
「面白くねぇ」
「もう暫くの辛抱です、天気予報は晴れですよ!」
3人は黙々と駅弁を頬張った。
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