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金沢初日
「いやぁ、金沢観光って夢だったんですよ」
北陸新幹線のホームを降り立った3人の弁護士は改札口を降り「佐倉法律事務所御一行様」とプラカードを掲げた大智に「よっ、久しぶり」と手を挙げた。
「この前会ったばっかじゃねぇか」
「大智が居ない事務所は寂しくて仕方ないよ」
「どうせ静かで仕事が捗るって言いたいんだろ」
「捻くれてんなぁ」
「おお!」
「あれが噂の鼓門!」
「柱一本一本が立派だねぇ」
鈍い朱色の組み合わさった柱は縄文時代を思わせる独特な造りで見上げた空は梅雨明け間近の青が広がっていた。
「さぁさぁ、持った持った、!」
「ちょ、おれは荷物係かよ!」
3人は大智に旅行鞄を持たせると金沢駅の鼓門の下で記念撮影を始めた。
「鼓ってあれだろ、芸者の鼓なんだろ」
「よく知ってるな」
「るるぶ買ったんだ」
「どんだけ楽しみにしてんだよ」
辰巳がもてなしドームと呼ばれる鉄骨のシェルターを仰ぎ見ると透き通るガラス張りで「ふむ、これは」と腕組みをした。
「なんだよ」
「鳩の糞害が取り沙汰されそうですが美しいですね、鳩の姿も見当たりません」
大智がタクシー乗り場の行列に着きながらドヤ顔で鼻息を荒くした。
「時々、鷹匠を呼んで鷹を飛ばすんだよ」
「鳩もたまったもんじゃありませんね」
「成る程」
辰巳は満足気に頷いた。
「で、ホテルは何処なんだよ」
「セパレートじゃないと嫌ですからね、」
島崎はトイレットペーパーが湿気るのが嫌だとバストイレ別のホテルを希望した。
「今回は無報酬だぞ、贅沢言うなよ」
「金沢駅西口のハイアット、今なら格安!能登半島地震の影響かな」
「2人で20,000、1人で20,000しかも朝食無し」
「寝泊まりするだけだぞ」
そこで大智が見つけて来た格安のバストイレ別のセパレートホテル。近江町市場の斜め向かい、瀬尾が希望する朝一番の海鮮丼に程近い。
ホテルフォルツア金沢
金沢市安江町2−10
シンプルな造りだが清掃も行き届き綺麗好きの島崎は感激していた。辰巳はシャワーが前後左右天井から打ち付けその度に悲鳴を上げていた。
「これで10,000円代!それも2人で!」
「1人なら5,000円!」
その月々で価格は変動するが今回は直前の空室でお得に泊まる事が出来た。ただ朝食が別料金で1人2,000円、朝食はやむ無く隣接するコンビニエンスストアで済ませる事にした。
「おまえらビール呑むんだろ」
大智は持ち帰りの鮎の塩焼きを扱う店を教えてくれた。近江町市場はメインストリートから外れた場所にも美味い店がある。
金沢市青草町88
(有)みやむら
「ふおおお、山盛り!」
「養殖だけど美味いぜ」
こうして4人はホテルで顔を赤らめた。
「おい大智、明穂ちゃんは良いのかよ」
「息抜き息抜き」
「やっぱりおまえは適当だな」
大智は真顔になった。
「やっぱ、実の兄貴を追い込むとなると気が滅入るわ」
「そうだな」
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