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目を開くと、俺は手すりにもたれかかっていた。太陽の光が目に飛び込み、思わず目をつむってしまう。俺は何をしていたんだっけ。あいまいな記憶を辿っていると、足元に置いている紙に気づいた。そこには遺書と書かれており、自分が死のうとしていたことを思い出した。
生きて。
その言葉が脳裏をよぎった。それは涼子の声だった。生きて。その言葉が脳の内側に響く。
立ち上がり、遠く山を見る。そして、この場所が、涼子に愛の告白をした場所だったことを思い出す。
「どうしよっかなあ」
俺は一ヶ月かけて考えた愛の言葉を彼女に伝えたが、彼女はなかなか首を縦に振ってくれなかった。焦りを感じた俺は思わずこんなことを言ってしまった。
「涼子のお願いは何でも聞くから」
彼女はその瞬間、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「何でも? しょうがないなあ。それなら付き合ってあげても良いよ」
そうだった。俺はあの時、涼子に、何でも願いを聞くと言ったんだ。そんなやり取りも、いつしかすっかり忘れてしまっていた。
生きて。
彼女の言葉がまた頭の中で繰り返される。そうだ。俺は彼女の願いを聞かないといけないんだ。
俺は足元の遺書を拾い、思いっきり破り裂いた。その破った紙を手すりの向こう側へと投げた。白い紙はひらひらと舞いながら落ちていった。
俺は大きく息を吸った。新鮮な空気が体内に入るのを感じた。
生きて。彼女の言葉、これだけを指針に生きていけるような気がした。目を細めて、朝を迎えた町を眺める。心の中には、この一年なかった清々しい気持ちが広がっていた。
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