死なない男

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死なない男

「くそっぉ! カナイマの言っていた敵がこんなに早くやってくるとは!」  マッカーが大慌てで荷物をまとめている。 「どないします? いっそマルモーケ政府に縋って政府軍を出してもらいましょか?」  オロオロするアキマがスマホ片手にが提案するが。   「アホか! この島でしとることは『黙認』なんや。迂闊に関与を許したら、政府の奴らが出しゃばってくる口実を与えるやろが!」  そうなれば法外な『警備金』を要求してくる可能性とてある。  そこへ。 「ちょいと失礼しますがね」  白髪でボロボロの服を着た老人がマッカーたちの前に現れる。止命鍼師だ。 「何や、お前! 何処から入ってきたんや!」 「失礼ながら貴方たちに用事はない。貴方たちの護衛をしている『リビング・ゾンビ』とやらに用がある」  探すまでもなかった。マッカーたちのすぐ横でじっと立っている黒いスーツを着込んだスキンヘッドの黒人がいる。屈強な、ヘビー級の身体つき。 「『リビング・ゾンビ』呼びとは失敬なジジイだな。私は普通に生きている人間だぞ。名前で呼べ。『マークス』だ」  男がずいと前に出てくる。 「マッカーさん、ここは私が抑えます。皆さんは早く島から脱出を」  対峙するリビング・ゾンビと止命鍼師を横目に、マッカーたちがスーツケースを抱えて部屋を飛び出していく。 「いいのかね、彼らを追わなくて。それが目的では?」  リビング・ゾンビが拳を重ねてボキボキと低い音を鳴らす。 「儂の目的はお前じゃ。あんな雑魚に用事なぞない」  止命鍼師の右手に一尺ほどもあろう長い鍼が握られる。 「ふん。そんなものが俺様の肌を貫けるとでも? ジジイは家でテレビでも見てるんだな」  せせら笑うリビング・ゾンビ。  それはまさに一瞬だった。年齢と格好からは全く想像もできないほどの凄まじい速さで止命鍼師がリビング・ゾンビの背後へと駆け抜けていた。 「む! どうしてそんなスピードが?! とても人間技とは思えん」  少なからず驚きの色が滲むリビング・ゾンビに、止命鍼師は「ふふん」と鼻で嗤ってみせる。 「散々培った鍼の技は己にも有効なのだよ。今の儂はオリンピックメダリストより高いフィジカルを誇るでの」 「ほう、中々面白い芸だな。だがそれで?」  にぃと笑う口元には明らかな余裕。 「ちっとばかり首の後ろがチクッとしたかも知れんがな」 「……」  止命鍼師自慢の鍼は、まるで鋼の板でも突いたかのように、胴体の真ん中からぐにゃりと『くの字』に曲がっていた。 「随分と硬い皮膚だな」  鍼の曲がりと鍼先の潰れ具合を見ながら止命鍼師がつぶやいた。 「まぁな」  リビング・ゾンビが白い歯を見せて大きく笑った。 「俺様の特異体質に加えて、『気功術』のトレーニングを受けている。この2つが合わされば、ときとしてこの皮膚は鉄の硬さをも超えるのさ」
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