巨体の極み

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 突如、ヒッポー・タマスがガネーシャに巨大な手のひらを向けてきた。まるで子どもが目の前にあるおもちゃを手にしようとするかのように。 「鈍いわ!」  ガネーシャがその伸びてきた手のひら目掛けて鋭い右ストレートを叩き込む。ズシン! と響く重い音。 「……ウム?」  ちょっと不思議そうな顔をして、ヒッポータマスが手のひらを見つめた。 「『効いてない』か。そりゃそうだろうな。私だって100キロクラスのボクサーのパンチなんて何も感じないし」  じり……と足を引き、構えを取り直す。見上げる、巨大な体躯。まるで巨人の国にでも迷い込んだような感覚。 「はは! 『3倍の差』とはこういう景色か。中々体験できるものではないな」  圧倒的体格を持つガネーシャにとって、相手が自分より遥かにデカいという経験は初めてのことだ。 「グム……?」  ヒッポー・タマスが小首を傾げている。どう扱っていいのか分からないといったような。つまり認識していないのだ。まるで子犬でも見るかのような。 「腹立たしいものだな。実に受け入れ難い」  苛つきはするものの、さりとて実際に見るこの信じられないほどの肉の塊をどう扱えばよいのやら。まともな蹴りや拳なぞ効果はないだろうし、下手に掴まれば身体ごと引き裂かれる可能性すらある。 「されば不本意ではあるが」  半身の姿勢をとり、呼吸を測る。 「『技』というものを使わせてもらうぞ。『3倍の体重差』が勝負の絶対を意味しないことを示してくれる!」  瞬間、ガネーシャがヒッポー・タマスの足元目掛けて片足タックルを仕掛けた。ただしがみついて倒すのではない。敵の右踵に自身の左手を掛け、そこを支点として肩口で敵の膝頭をぐいと押す。  こうなるとテコの原理が働く。反対側には曲がらない膝が力を失い、そのまま重心が背中側へと移動する。つまり『倒れる』のだ。これは総合格闘技で使われるタックル技の一種。  ズズン! と地響きがした。1.2トンに達するヒッポー・タマスの巨体が地面に落ちる。 「見てろよ! ここからだ」  倒れたヒッポー・タマスの左踵を自分の脇に抱え込み、自身の両足で大木のような足をロックする。柔道発祥だが今では禁止技とされる『膝十字固め』だ。 「グォォ?!」  それはかつてピッポー・タマスが経験したことのない『痛み』だった。常人からみれば10倍を超える体重を持つ彼にそんな技を掛けられる人類に初めて出会ったのだ。 「痛いか?! 見てろ、まずは膝靭帯を壊して立てなくしてやる! 泣いてギブアップするまで痛めつけてくれる!」  更に力を込めようとガネーシャが息を吸い込んだ瞬間だった。 「何?!」  全くの一瞬だった。  かつてガネーシャが味わったことのないほど途轍もない力で、渾身の膝十字が外されたのだ。  そして次の瞬間、ヒッポー・タマスの巨大な両手がガネーシャの胴体をがっちりと捉えていた。
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