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オンライン・カジノ
簡素で何の飾り気もないテーブルに、長髪の女がトランプのカードを並べていく。無言のまま淡々と。その前には一台のWebカメラが据えられている。
「ベット」
女が手を止めると傍らに備えられたモニターの数字が一気に跳ね上がる。女はちらりとそれを横目で確認してから「オープン」と宣言する。『締め切り』だ。
「……」
黙って開かれていくカード。
モニター上のチャットに『やった!』や『くそっ!』『早く次!』という文字列が物凄い勢いで流れていく。
女はカードを集めてシャッフルし、また機械的にテーブルの上に伏せ始めた。
……裏側が全て白紙のカードを。
「よぉ、アキマ。景気はどうだい?」
別室でこの様子をモニター越しにニヤニヤ眺めている男のところへ恰幅のいい男がやってきた。
「ああ、マッカーさん。はは! これがホントの『ボチボチでんなぁ』ってところで。げへへ!」
下卑た笑いが返ってくる。
「オンラインカジノってなぁ最高っすよ。たったひとつのテーブルで何万人も同時にゲームできるんだ。それも24時間365日で。動くマネーの桁が違いまっせ」
「ほんまやな」
マッカーと呼ばれた男がひひひ! と笑い返した。
「金銭感覚がぶっ飛んでしまうで。わいらも、鴨どもも!」
「カジノ場で遊ぶ金持ちたちはギャンブルが『ただのゲーム』で儲けるモンと違うと知ってますわな。当然ですわ。胴元が損するような博打を開帳するはずないんやから」
アキマが今日の売上を指さしてみせる。1秒毎に伸びるグラフ。
「せや。しかしワシらの客は違うねん。ギャンブルが儲かるモンやと勘違いしよる。アホやで、ほんま。しかも『カード』は全てAIが画像を上書きしとるから鴨ごとに損得の確率がコントロールされとるしのぉ」
二人して肩を組んで笑い合っていると、そこへ白のスーツを着込んだ男が入ってきた。
「何や、カナイマか。どないした?」
尋ねるアキマにカナイマは「ちょっと面倒なことに」と顔を曇らせる。
「ウチらのサイトが目立ち過ぎて、実店舗型のカジノを経営するマフィアやギャンブル屋どもが『あいつら商売の邪魔や』いうて潰しにかかる算段しとると」
「ぎゃはは! 無理やろ、無理!」
マッカーが大きな腹を揺する。
「このオセアニアの小国・マルモーケ共和国はワシらが政治家にガッチリ食い込んどるさかい、簡単には手出しできへんわ。それにこのカジノアイランドにはテロ対策として特別な用心棒も用意しとるしのぉ」
「……それが向こうもマジらしくてですな」
カナイマの声が低くなる。
「彼奴ら、『規格外の化け物連中』を集めて喧嘩仕掛ける気ぃらしいんで。……その数5人と、噂を聞きやした」
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