狂宴の終焉

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「お前ら、命と金のどちらを選ぶ?」  コータローの銃口がマッカーたちの方へと向けられる。 「わ、分かった! 金だ、金で何とかしてくれ!」  真っ赤な血を浴びたままのガネーシャを前にして、もはやマッカーたちに選択の余地はなかった。通話状態にしたコータローのスマホに「マルモーケ中央銀行へ預けてある全ての現金について、その権利を放棄する」と宣言させられた。  あとの分け前についてはマルモーケ政府とコータローの『背後』が話し合うらしい。 《コータローさん、聞こえますか》  スピーカーにしてあったスマホから声が聞こえる。 《防疫班が死香婦人とドクターイミューニーの生存を確認、回収に成功しました。ヘリでそのままオーストラリア行きのLNG船へ向かうそうです》 「他の奴らは?」 《『従業員』は全てマルモーケ政府の特殊部隊が身柄を確保したようです》  入念な突撃計画、事態の収拾に介入したという名目である。政治家だろうと商売人だろうと金で動く人間はより多い金に動くものだ。 「……後のチーム・ジャークスのメンバーは?」  聞き返すコータローに、通話の相手は《全員、船に戻ってます》と答えた。 「そうか」  コータローが踵を返す。 「そんじゃあな、もう二度と顔を見ることも無ぇだろう」  がっくりと肩を落とすマッカーたちを背に、ガネーシャとともに船に引き上げていく。  離岸して夜の海を進む大型クルーザーは、行きとは異なり静かなものだった。 「放って置いていいのか? あの連中は」  シャワーから戻ってきたガネーシャがデッキから海を眺めていたコータローに尋ねる。 「ああ。こっちが手を下すまでも無ぇ。奴らのスマホは衛星回線を遮断しておいたし、外界への連絡手段はない。隠してあった脱出用のボートは俺が破壊しておいた」 「海を泳いで逃げようにもこの辺りはイタチザメの巣だからな。だが、生首を持ち帰らなくてもいいのか? 罪を犯したサムライは晒し首だと聞いたが」  褐色瓶のブランデーをラッパ飲みするガネーシャにコータローが低くつぶやく。 「あんなクズ野郎でも奴らは一度は仁義を交わした弟分なんでね。俺は『生きて島から出すな』という指示に従ったまでよ」 「がはは! ならば死ぬまであの島で暮らすしかないか」  ガネーシャが高笑いする。 「過ぎた欲望の果てには破滅しかない。それは奴ら自身が『鴨』を相手によく知っていただろうになぁ」  何処か気の抜けたコータローの肩をガネーシャがポンと叩いた。 「そうだな。『自分だけはそうならない』皆んなそう思ってやがんのさ」  船はゆっくりと夜の海へと去っていく。先程までの喧騒がまるで嘘だったかのように……。 完
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