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1人目 ガネーシャ
……3週間前。
「がはは! 日本から来なすったか、こんなインドの山奥なんぞという辺鄙なところまで。久しぶりの客人だ、歓迎しよう」
ピンストライプのスーツを着込んだコータローの前にでんと座るラフな格好の男はもはや人間という枠を超えた巨体だった。
上背は3メートルに近く、全身を覆う分厚い筋肉によって体重は350キロを超えるという。まともな人間としては間違いなく世界一の体格だろう。
「ガネーシャさん。事前に伝えた通り、我々国際ギャンブル連合はあなたの力を借りたいと思っている」
コータローとて上背190センチ、体重120キロの日本人としては超大柄な部類に入るが、ガネーシャ(像の神の意)とは比べものにもならない。自然と足に細かい震えが走る。
「ああ、お前らマフィアどもがそのオンラインカジノとやらを潰すってやつか? 私には興味のない話だ」
ガネーシャは傍らの酒に手を伸ばした。白亜の豪邸の中庭には噴水が水を湛え、高い天井の明り取りから太陽の光が落ちてくる。
「ガネーシャさん、あなたは間違いなく『全格闘技界で世界最強の男』だ」
「ははは! 試したことはないがね。何しろ私がリングに上がると挑戦者たちが皆んな逃げてしまうのでな。3倍も体重が違えば勝負になぞならん」
規格外の体格はライフル弾ですらその身体を貫通させないといわれる『生きた兵器』。インド政府は彼の力が暴走することを恐れ、マハラジャ(国王)と同等の居住条件を与える代わりに彼を山奥に『軟禁』しているのだという。
「……でしょうね。しかし『人類最強か?』と問われればどうでしょうかな」
コータローの言葉にガネーシャの手がピタリと止まった。
「まさか」
ジロリと睨む目付きはそれだけで肝の弱い人間の心臓を潰してしまうだけの圧力を感じる。
「そのとおり。我々と敵対するそのカジノには、用心棒として『彼』がいるのです」
「『彼』だと? ふふん。君たちはあれを人間扱いするのかね?」
ガネーシャの眉に不愉快を現す皺が寄る。
「……さぁ。それは何とも。ただ人間の『ような』形をして人語を解し、人間のように暮らしているとか。知能は……かなり低いらしいそうですが」
「ヒッポー・タマスか。知らんわけじゃない」
持っていた酒瓶の中身をガネーシャが一気に飲み干した。
「世界中探しても彼とタイマン張れるのはガネーシャさんより他にはいないでしょう。もっとも」
ヒッポー・タマスの化け物ぶりはガネーシャを更に超えるのだ。
「その体重は1200キロに及ぶとか。あなたの3倍を超える怪物です。それに挑むか、どうか。無論、あなたの言う通り3倍の差は対戦を避けて当然の……」
「実のところ、ここ最近は運動不足でな」
どん! と置かれた酒瓶が一瞬で粉々に砕ける。
「『最強』という称号が私のような紳士にこそ相応しいことを、証明してみせよう」
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