3人目 スーパークロダイル

1/1
前へ
/20ページ
次へ

3人目 スーパークロダイル

 1週間後、コータローはオーストラリア北部のクリーブランド州に来ていた。比較的温暖な北部の国立公園。  正規軍仕様の装甲車で目的地の湿地へと向かう。 「前金は貰ったが、アンタに何かあったらソッコーで逃げるからな」  運転手の腕を飾る派手なタトゥーは、しか威嚇できない。 「逃げたら成功報酬は払われんぞ。前金の2倍が惜しくないのか」  コータローがそう返すが。 「冗談じゃねぇ。金で命が買えるってのか? たった2倍で命を捨てるつもりは無ぇんだよ」  装甲車の後部にボルトで固定されているのは『対物ライフル』だ。人間ではなく、装甲車や戦車を相手にするための。 「あそこだ」  装甲車が止まった先の川べりにワニの群れが見える。尻尾まで含めれば4メートル、体重400キロを越す巨大なイリエワニだ。 「とりあえず、周りの取り巻きどもを蹴散らす」  運転手の男がライフルを空に向けて一発を放った。その轟音を聞いて、日向ぼっこをしていたワニたちがぞろぞろと川の中へと入っていく。 「あそこにいるだろ、が。あれがそうだ」  指差す先に、そいつはいた。 「……何だよ、ありゃ。人間というより爬虫類に近いんじゃないのか?」  尻尾こそ短いが頭は完全にワニのそれだ。無骨で分厚そうな皮膚。だが胴体や手足は極太ではあるが人間と同じ形状をしているし、ボロボロだが服も着ている。 「ああ、だが間違ってもヤツに『爬虫類(レプタイル)』って言うんじゃねぇぞ。それで下顎から上が無くなったヤツもいるって話だ」 「そうか。だったら英語は通じるんだよな?」  コータローの念押しに運転手は。 「Maybe(たぶん)」  と答えた。 「……分かった」  コータローが装甲車を降りる。とても話ができる相手には見えない。『何かあったとき』は後ろからの対物ライフルに期待するしかあるまい。何しろ機関銃の一斉掃射に血しぶきの一滴も出なかったという化け物なのだ。 「……スーパークロダイルというのは君のことか?」  安全を見て3メートルほどの距離で足を止める。 「それがどうした」  返ってきたのは驚くほど普通の英語だった。オージー特有の訛りもない。 「君の手を借りたい。成功報酬について注文があれば教えてくれ。できる限りのことは……」 「弱い者イジメに興味はない。これは金額の話ではなく元軍人たる俺の信念の問題なのだ」  ごろんと地面に転がったまま素気ない返事。  元々『彼』は米国陸軍の特殊部隊に所属し、極秘任務中に瀕死の重傷を負って本国に緊急搬送されたという。  損傷した部位が酷く通常の治療では助からない。そこで表向き『殉死』ということにしてバイオ兵器開発機関に身柄を搬送。クロコダイルのDNAを移植した『超人兵士』の検体として使われた結果、現在の姿になったのだという。  無論、人権侵害どころの話ではない。  米国は彼の存在を隠すべく、オーストラリアに送ったとされる。今は個人で野生動物を密猟から護る活動をしているとか。 「何万、何百万という人たちを不当な搾取から救うという崇高な特殊任務だ」  コータローのセリフには、まあ間違いはない。 「だが厄介な『壁』があってな。『イーバ(牙)・ブラザーズ』という5人組だ。彼らは1日で牛1頭を喰らい尽くすとさ。無類の強敵と言っていいだろう」 「その話に嘘は無いだろうな?」  ワニの巨体がゆっくりと持ち上がる。 「世界平和のためになる。それが俺の成功報酬だ」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加