4人目 タフ・ボーイ

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4人目 タフ・ボーイ

 3日後、コータローはオーストラリア南部に来ていた。比較的気温の低い南部タスマニア砂漠の中央付近だ。  『規格外の化け物』4人目の候補である『タフ・ボーイ』はここに住んでいる。……いや、されているのだ。彼専用に作られた特別な刑務所にである。 「やあ、君がタフ・ボーイか」  分厚い透明な壁の向こうにいる男にコータローがマイクで声を掛ける。コータローの両隣にはライフルで武装した看守が立っているが、緊張の色は隠せていない。 「ん? 何? 誰、あんた」  それはまるで動物園の展示室のようだった。  あらゆるものが乱雑に散らばる部屋のベッドから上半身を起こしたのは、少年のように小柄な男だった。顔のそばかすが如何にも若さを感じるが、実年齢は25歳だという。 「私は日本からきたコータローというものだ。君の力を借りたい」 「やだよ、面倒くさい」  タフ・ボーイはそれだけ言うと再びベッドにゴロリと横になった。 「ここは外に出ると寒くて嫌なところだけれど、この部屋の中にいるのなら好きなものを好きなだけ食べさせてくれるし、ゲームもネットも無制限だ。それにゴロゴロしてても遊んでいても誰からも叱られたりしない」 「き、気を付けてください」  ライフルを持った看守の声が震えている。 「とにかく怒らせては絶対にダメです。特殊ポリカーボネートの壁ですが、これでも絶対は保証できんのです」  幼少期から癇癪持ちで、暴れ出したら手が付けられなかったという。  やがて成長するにつれ筋力がついてその『被害』は桁違いになった。  当時通学していた小学校にテロリストが侵入して立て篭もりを仕掛けたときには『怒鳴られて腹が立った』という理由で犯行グループ6名全員を素手で惨殺したという。  何が原因で発火するのか全く予測不能。  そして一度暴れ出したら最後、彼の気が済むまで止まることはない。  コンクリートの壁すら破壊する化物級のパワーと、チーター並みとすら称される速度と瞬発力。そして『見境いのなさ』。 「そうか、快適ならそれが一番だろう。しかし」  コータローも慎重に言葉を選んでいる。 「退屈はしていないかい? たまには思いっきりしてみたいと思わないか?」  タフ・ボーイが頭を傾けてコータローを無言で睨んだ。 「どれだけ暴れても絶対に叱られない、いい機会があるんだよ。いや、むしろその破壊によって世界中から感謝されると言っていい。だから君を誘いにきた」 「何だよ、それ」  タフ・ボーイの口元が微かに緩む。 「ただし難敵がいる。催眠術か超能力か知らないが野生のライオンですら猫みたいに大人しくさせちまうっていう『グランド・マザー』って老婆だ」 「僕には無意味だってことを、その婆さんに教えてあげるよ」  タフ・ボーイはゆっくりと立ち上がった。
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