「毒」対決

1/2
前へ
/20ページ
次へ

「毒」対決

 上陸した死香婦人はそのビルの前で防護服を脱ぎ捨てた。 「あーあ、やっと自由に息が吸える。それにしてもこんな暖かな空気は久しぶりねぇ」  自動ドアを開けて中に入り、そのままエレベータで最上階を目指す。真夜中だからか他に同乗者はいない。もしもいたならば、10秒も生きていられなかったかも知れないが。  最上階で降りてから、外へ出るためのハッチを探す。 「おや? あれかしら」  ぐいと引っ張ってみるが施錠されているようだ。 「おやおや困りましたねぇ」  辺りを見渡していたときだった。 「おい! そこにいるのは誰だ? ディーラーか? ここは立ち入り禁止区域……」  保安員が喋ることができたのはここまでだった。それ以上は口から吹いた泡で何も言えなくなり、ばったりと倒れてしまった。 「これはこれは、手間が省けました」  死香婦人は何事もなかったかのように保安員の腰についていた鍵束を手にとった。 「まぁ色々ありますこと。どれでしょうかねぇ。きっとギザギザがたくさんあるのがマスターキーだと思うんですが……これでしょうか?」  取り出した1本の鍵を突き刺すと、頑丈なロックはこともなく開いた。 「ああ、いい空気。とても新鮮!」  外部はエアコンの室外機や給水塔などの機械類が並んでいる。 「ええっと、これが給気口かしら。空気を吸ってるみたいだから、多分それね」    ふぅと軽く息を吸い、その給気口の前にじっと立つ。それだけで全身から溢れ出る病原菌が吸い込まれていくのだが。 「ついでだし」  腰のポケットからペットボトルを取り出した。中身はただの水なのだが、これを彼女が口に含んでからぷぅと給気口に吹き付けると……そう『エアロゾル』だ。  『効果』はすぐに現れた。 「次のゲーム」  階下のディーラー室でカードを広げていた男たちが一斉に喉を抑えてのたうち回り始めたのだ。まるで殺虫剤を巻かれた油虫のごとく。 《何があった?!》 《テロか? いや、もしかしたら警察のガサ入れかも知れん!》 《やべぇぞ! アカウントのログを取られたら俺等もやばい!》  チャットの画面が一斉に荒れ始める。ゲームから大量のログアウトが続く。 「何や?! 何があったんや?」  突然の異常事態にマッカーたちは配信回路を切断し、カメラをディーラールームへと切り替える。すると。 「私だ。イミューニーだ」  白衣に黒縁メガネの男が画面の隅に現れた。そして倒れた男たちを冷静に診察していく。 「アスピリン系の毒物だな。給気口を狙われたか。わざとディーラー室を攻撃して『このサイトは危ないぞ』という宣伝をするのが目的だろう。何、見た目はともかく解毒は簡単だ」 「おお! ドクター!」  マッカーが画面に顔を近寄せる。 「任せておきたまえ。すぐに終わらせてくる」  ドクター・イミューニーはそう言い残して、部屋を出ていった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加