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突撃
真夜中の小さな港は静まり返っていた。
何しろ周囲の島々から孤絶したオセアニアの孤島なのだ。その地理的条件そのものが強力な防御壁。
特段の警備は不必要とも言えるだろうが、『手薄』なのは危機意識が低いからではない。むしろ……。
大型のクルーザーがそっと接岸していく。そのデッキには異様な面々が。
「で? 私の敵である『ヒッポー・タマス』は騒ぎが大きくなったら出てくると考えればいいのかね? ならば待ち構えておくよ」
常人の3倍を超える筋肉の巨体、褐色肌の男が顎髭を撫でつける。
「紳士たるもの、全力でぶつかれる相手がいるのは幸せなことだよ」
「僕はあの端っこにある『サーバー棟』をブチ壊せばいいんだろ? 嬉しいなぁ、何十万ドル? 何百万ドル? の損害が出るんだろ?! わくわくするよ」
少年のように小柄な男の子がポンポンと飛び跳ねている。
「早く会ってみたいなぁ『グランド・マザー』とやらに。絶望を味わわせてあげたい」
「アタシは予定通りあの建物のてっぺんに居ればいいのね? 吸気口から思いっきりアタシの可愛い病原菌ちゃんたちを送ってあげるわ」
全身を防護服で覆った女が嬉しそうにしている。
「その『免疫人間」とやらがどの程度がとても楽しみ」
「……儂の敵という『リビング・ゾンビ』とやらは首謀者の近くで警備しているのか? ならばあの豪華な家へそのまま向かえばいいな」
白髪の老人が灯の点る豪邸を指差す。
「死を超越できる人間なぞおらぬ。どういう仕組みなのか、とっくり研究させてもらうよ」
「俺の相手になる『イーバ・ブラザーズ』とやらの専門は水中なんだろ? ならば俺はここにいた方がいいだろう」
そう冷静に言ったのは頭部がワニの形をした男だった。二足歩行で特注の巨大軍服を着込んで腕組みをしている。
「俺が敵なら必ず『侵略者』の足を奪おうとするだろう。戦地の基本だ。ならばその『イーバ・ブラザーズ』とやらもこの船を襲うだろう」
「皆んな、聞いてくれ」
ライフルに防弾チョッキ、サバイバルナイフで武装している大柄な男が全員を見渡す。チームのまとめ役だが、どうみてもカタギではない。
「我々のしようとしている行為は決して合法とは言い難いが」
周りを囲む連中がふふ、と笑った。
「だが世界中の人間にとって利益になるのは間違いない。司法とは悪党を相手するときの絶対解では無いのでね」
「はは! 嫌いじゃない方法論だ」
筋肉巨体男が身体を揺する。
「チーム名が欲しいな。『我々』では分かりにくい」
ワニ男の問いかけに、まとめ役の男がこう提案した。
「そうだな。ならば敵にとって『不愉快な奴ら』という意味で『ジャークス』というのはどうだ」
その名前で、誰からも異論は出なかった。
「さて、作戦開始だ」
まとめ役の男が下船の用意を始めた。
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