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あたたかい家や服、無条件の優しさ、何気ない会話。きっとそれは、普通の人が持っているものなんだと思う。
アクアは彼がいないと、手に入れる方法さえ分からないけれど。
「ふっ、ゔぅ……」
どうしてか涙があふれる。身体が熱い。
自身を慰めながら、全身がブラッドを求めているのを感じていた。他のどんなアルファと相対したときだって、こんな風になったことはない。
何者も侵入したことのないお腹の奥が疼く。
ここに、彼の性器が入ったら……どんな気持ちなんだろうか。想像するだけでキュンと中が収縮した。
でも彼は、もう他人のものだ。アクアが求める資格なんてなくて、自分の居場所はどこにもない。親に捨てられたときから、分かっていたことじゃないか。
「だ、だんなさまぁ……ひっ、う。ぅ〜〜っ。さみし……」
寂しいなんて感情、持っていなかったはずなのにな。
そもそも感情なんて必要ないと教えられてきたのに、ブラッドと暮らすようになってからアクアの心は感情に満ちている。とっくに自分は、殺し屋として不適合者になっていたのだ。
「アクア!!」
はぁ、幻聴まで聞こえてきた。もうブラッドがアクアを迎えに来ることなんてないのに。
「あぁ、遅くなってごめん。泣いているのか?」
幻なら、くっついても許されるよね?そう夢現に思ったアクアは、かっこいいスーツを着たブラッドにぎゅっと抱きつく。
「くっ。可愛すぎる……この死ぬほど可愛い生き物が、私の奥さん……」
「まだ言ってるんですか。ブラッド様もキャラ変わりすぎでしょ。はー、『惑乱のアクア』がこんな界隈に住んでたとは……そりゃギルドも見つけられないわけだ。ひどい場所」
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