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かつての同僚、スピネルも屋敷に住み着いていた。彼はだいぶ前からブラッドの手下として暗殺ギルドのスパイをしていたらしい。
ブラッドって、何者なんだろ?
スピネルはアクアのよき話し相手……だと思われているらしいが、いつも辛辣に突っ込まれる。ブラッドに対してもよくズケズケと話しているので、これが彼の通常運転なんだろう。
「好き……?もともと好きだけど」
「感情が育ってないって恐ろしいな〜……まぁ、ブラッド様も恋愛に関しては鈍すぎでしたけど」
「れんあい……恋ってこと!?」
この感情はブラッドに対する恋だったのだと、言われて初めて自覚する。
(どうしよう。好きな人が出来たら別れるって契約なのに……好きな人、できてた!)
青ざめたアクアを、スピネルは白けた目で見ていた。
その夜、アクアは神妙な面持ちでブラッドの私室の前に立っていた。幼い頃から暗殺者として教育されていたアクアは、契約は守るものだと身体に染みついている。
特にブラッドとの契約は守りたい。彼に嘘は、つきたくなかった。
扉をノックし名乗ると、入室の許可が与えられる前に扉が開かれた。目の前に立ったブラッドは驚きの目でアクアを見下ろしている。
よく考えたら、夜にふたりで会ったことはないかもしれない。彼が構ってくるのはいつも夕方までの時間だ。
「旦那さま、お話があるんですけど……入ってもいいですか?」
「あっ、ああ……やべぇ。寝間着、くっそ可愛いな」
ブラッドがなにかブツブツ言っているのはいつものことなのでもう気にしていない。とはいえ、寝間着のまま会いに来るのはマナー違反だっただろうか、とアクアは不安になった。
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