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アクアの体質はちょっと特殊だ。発情期のいちばんひどい日――アクアは二日目と呼んでいる――じゃない限り、フェロモンの量を自分で調整することができるのだ。
ギルド長は喜んだ。アクアは相手を油断させやすいため暗殺者としてはぴったりな上、フェロモンをコントロールできたらさらに完璧だから。
いつの間にか付けられていた二つ名は『惑乱のアクア』。氷のような色の瞳に冷たい表情、けれど少し眠たげな二重と泣きぼくろが色っぽい。
たいていのアルファやベータは、彼のようなオメガがベッドの上ではどんな風に乱れるのかを想像せずにはいられない。相手を誘惑し、思考力をフェロモンでとろっとろに溶かしている間にサクッと殺す。
女好きのターゲットの場合は女装することもある。そのために髪を伸ばしているし、脱がなければバレない。そこまでする必要もなく殺せるから、相手とは寝ないのがアクアのモットーだ。
しかし、アクアにはギルドにも秘密にしていることがあった。それは――――
「旦那さま、おはようございます」
「おはようアクア。今日も麗しいね」
「どうも」
アクアは二年前、目の前に座る旦那さま――ブラッドと結婚していた。
ブラッドは、この街で大きな商店を構えている成功者として有名なひとだ。艶のある黒髪をサイドバックにまとめ、彫りの深い顔に濃いグリーンの瞳をもつ色男。
二次性はアルファである。
ふたりは運命的な出会いをへて恋に落ち電撃結婚した……わけではなく、お互い納得づくの仮面夫婦、しかも白い結婚だ。つまり番にもなっていない。
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