1.暗殺者のおれが命じられたのは、夫の殺害でした。

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 毎日朝食を一緒にとる以外の交流はないが、関係は良好だ。  恋心こそないが、アクアはブラッドに深く感謝していた。彼のおかげで衣食住すべてが整えられ、発情期のときも安全な場所をわざわざ探す必要がない。  アクアは夜こっそりと仕事に出かけることもあるが、朝まで干渉されないので朝食にさえ間に合えばいい。それ以外は自由時間だ。  ブラッドはアクアを性的な目で見ないので、夫としての相手を求められることもない。こんなにも素晴らしい条件で結婚相手として迎え入れてくれる人は、彼以外にいないだろう。  アクアにしかメリットがないかと思われるこの結婚はしかし、ちゃんとブラッドにも理由があった。  若くして成功した彼には多くの釣り書が届き、取引相手にはお見合いを打診され、アルファゆえのハニートラップまであったらしい。  とはいえ、ブラッドには少々ロマンチストな一面があった。    『ちゃんと好きになった人と結婚したいという夢があるのに、好きな人がなかなかできない』らしい。それを聞いたときアクアは『死ぬほど理想が高いのかな』と思ったものの黙っておいた。  互いの利害が一致し、ブラッドかアクアに好きな人ができたら円満に別れる、という条件で結婚したのである。  ちなみにアクアは結婚にも恋愛にも夢を抱いていないので、相手も探さず現状に満足した日々を送っている。 (正直、旦那さまのおかげで生活できているから暗殺業は辞めてもいいんだけど……)    結婚したことは秘密にしているし、業界から足を洗うことは簡単じゃない。それにいつか別れるとしたら、その先はやっぱりお金が必要なはずだった。
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