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6 淫夢に誘ってしまいました★
「あ、あの? バーヤーン? 何を……?」
「うるせぇ、黙れ」
嫌な予感がしつつも、身体がなぜか固まってしまって動かない。背後ではあはあと荒い呼吸が聞こえるのは気のせいかな、とニコは後ろを振り返ることができなかった。
まずい、やっぱり淫夢だ。そしていい匂いというのは、インキュバスが相手を誘惑する時に発する力だろう。
(どどどどどどうしよう……!)
心臓が忙しく動いていた。まったく誘惑なんてしていないつもりなのに、この夢の中にいるだけで相手には効果があるらしい。
お祖母様が持っていた御本に憧れて、ハジメテのキスはお互い想いが通じ合ってデートを三回したあと、合意の上ですると決めていたのに、もう既にその理想が崩されてしまいそうだ。
とりあえず抵抗をしないと貞操の危機なので、ニコは思い切りもがいた。
「やっ、止めろ! 何するんだ!?」
なりふり構わず暴れると、ニコの頭が匂いを嗅いでいたバーヤーンの顔に当たった。彼が声を上げて腕の力が緩んだ隙に逃げようとしたけれど、腕を引かれて対面で両腕を捕らえられてしまう。
「抵抗すんなよ、燃えるだろ?」
「ひ……」
バーヤーンの青い瞳は鈍く光っていた。完全にニコを喰らうつもりのその顔は雄臭く、ニコの心臓は恐怖でさらに大きく脈打つ。
「……やだ……嫌だ!」
逃げようと半身になったところで腕を引かれ地面に倒された。すかさず上にのしかかってくるバーヤーンを、腕をブンブン振って追い払おうとする。けれどそんな抵抗をものともせず、彼はニコの首筋に舌を這わせた。
「……っ!」
熱い吐息と、濡れた柔らかい感触に、ニコの身体はハッキリと反応する。嫌なのに、さすがインキュバス。どんな愛撫でも感じてしまうものらしい。
れーっとバーヤーンが首筋を舐め上げる。途端に腰の辺りがゾクゾクして身体が震えた。目を閉じて口を噤むと、バーヤーンが舐める度に身体が震えているのに気付いてしまう。
フッとバーヤーンが笑う気配がした。
「……感じてるのか? ずいぶん大人しくなったな」
「ち、違う!」
すると彼は唇を少し下に這わせて、鎖骨を甘噛みする。とたんに強い快感がニコの身体を突き抜け、何とか逃げようともがいた。
何だこれは。こんな強い快感、知らない。
精気に飢えているからかと思った。何もかも吹き飛びそうなほどの快感にニコは戸惑う。そしてその奥に見え隠れする、その強烈な刺激を求めてしまう自分に気付き、怖くなった。
このままではバーヤーンを殺してしまうかもしれない。
「止めろ! 僕はきみを殺したくない!」
「ああ? これだけ強烈に誘っておいて、何言ってんだ」
インキュバスの誘惑の香りってのは、本当にクラクラするほどのものなんだな、とバーヤーンはニコの腰を持って引きずり寄せる。逃げようと寝返り、四つん這いになったところで強引にまた腰を掴まれ、バーヤーンの太い楔が打ち込まれた。
「あ……、あ……!」
もはや声も出ない。バーヤーンが後ろに入ったと思ったら全身が痙攣し、目の前に星が散る。
「──ほら、お前もヤル気じゃん? 擦ってやるよ」
そう言ってバーヤーンは、いつの間にか勃ち上がっていたニコの雄を扱いた。優しい手つきのはずなのに刺激が強く、二往復扱いたところで勢いよく射精してしまう。
こんな……こんなの知らない。こんな気持ちいいこと、知らない……知りたくない!
草むらに飛び散った白濁を見たのか、バーヤーンが笑う。
「……はは、相当溜まってたみたいだな。ほら、インキュバスならこっちでも気持ちよくなれるんだろ?」
彼はグッと屈んで楔を奥まで押し込み、ニコを揺さぶった。背後で聞こえるバーヤーンの弾んだ息と時折漏れる声、ぱちゅんぱちゅんと身体が当たる音にゾクゾクし、背中を震わせながら一瞬意識を飛ばす。
「あーすげー……お前いまイッてるだろ?」
ニコはその言葉に口を押さえて首を振った。声は出したくないと親指の根元を噛んで耐える。インキュバスの特性なのか、繋がるだけでも意識が遠のくほどの快感を覚えるらしい。嫌だ、こんなの。
「──嫌だ!」
気力を振り絞って出した声は高く掠れていた。けれどそんな抵抗などバーヤーンは鼻で笑う。
「こりゃあいい。高貴な王族ご子息が俺に犯されてあんあん言ってる姿、みんなに見せてやりたいな?」
ガンガンと遠慮なく貫いてくるバーヤーンに、ニコは全身を痙攣させ背中を反らした。強烈な快感の波が何度も脳を貫き、悲鳴のような声で叫ぶ。
「いってない! いって……、──ッ!!」
「イッてるじゃねーか」
なぜか楽しそうに笑っているバーヤーンの神経が、ニコには本気で分からなかった。自分が絶対的に上だと知らしめる行為と言動……『洗礼』を積極的にするのと同じだ。
だからニコは彼が許せなかった。いや、許してはならない。『洗礼』を許さないのは、大切な両親とした約束なのだから。
「中に出すぞ、いいな?」
「……っ、ダメだ! 止めろ……っ!」
上擦ったバーヤーンの言葉にニコは思わず振り返って手を伸ばす。彼はその手を取ってニコの上半身を引き上げ、大きな手でニコの口を塞いだ。途端にまた強烈な波が来て、ニコの全身が震える。
「う……っ!」
後ろでバーヤーンが呻いた。中に熱が注がれているのを感じ、その感触すらも快感に変換される。その刺激でニコも二度目の射精をしてしまい、息が詰まるほどの快楽にビクンビクンと大きく痙攣した。
やがてそれが収まって、手を離された時にはぐったりと地面に倒れ込む。
そして夢の中で、ニコは意識を失った。
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