第二章

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第二章

「で、その読書感想文が校内特別賞を取って、図書だよりに載せられてしまったと」 「ほんと、とんだ誤算よ。責任取ってよ雨」 「どっちかというと僕も被害者側なんだけどなぁ。散々嫌いって言われ続けたんですが」  例年より遅い梅雨入りで、7月に入っても水中に沈んだように湿気に覆われた通学路を雨と一緒に歩く。  彼とは小学生の頃から何度もこの道を歩いてきた。庭師が手入れしている通称『藤原さん家のアジサイ通り』の前で、彼は不服そうに立ち止まった。私は気にせず進み続ける。  雨は、隣合って歩くと私が惨めな気持ちになるほどに顔が整っている。ふざけた男子に『水が選ぶ!滴りたい男No,1』という卑猥な肩書きを付けられるくらいに。 「ちなみに何の小説の感想ってことにしたの」 「雨をテーマにしてそうな小説の名前を借りたわ」  私の雨に対する読書感想文は、何も知らない人が読めばただの少しイタい文章で済む。けれど校内に於いてそれは、全校女子生徒に対する挑発へと変貌する。 「俺も読んだけど、あれは女子全員への果たし状になるんじゃないの? また陽花ちゃんの髪を教室で梳かしにくくなるなぁ」 「あんた、マジでどういう神経してんのよ……」  私と雨は付き合っていない。けれど私は雨からの寵愛を受けている。彼とは小学2年生からの腐れ縁だけれど、その幼馴染が高身長イケメンになり、高2でバスケ部を全国に導くエースに育つなど誰が想像できるだろうか。 「俺、手に入れられないものは何も無いと思ってたんだけどなぁ」  久しぶりに下校時間が重なった綾崎雨は、ふざけたことを宣いながら生垣のアジサイに触れてしまわないように注意を払い手を伸ばした。
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