<1・一敗地に塗れる。>

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 ***  小さな小屋だが、作りは存外しっかりしているようだった。内装はそこらの洋館のように綺麗に整っている。クリーム色の絨毯の上には、こげ茶色の丸テーブルと椅子。玄関脇には花瓶が飾られ、ホシタンポポの花がゆらゆらと窓から入ってくる風に揺れていた。  天上には小さなシャンデリア。地味にリフォームにお金かけてるんだな、と場違いな感想を抱いてしまう。 「え、えっと、その」  とりあえず用件を言わなければいけない。椅子に座ったところで、もじもじしながら切り出した。 「私は……マナと申します。見ての通り、エルフです」  言いながら、自分――マナは顔の両側に飛び出した長い耳を引っ張ってみせた。銀色の髪が、すっかり汗で頬にはりついてしまって気持ち悪い。ツインテールにしている髪もゴムがゆるんで酷い有様となっていた。  奥の部屋に風呂はあるだろうか。もし借りれるのならそうしてしまいたい、とさえ思う。いや、人の家に来て早々こんなことを考えるなんてあまりにも失礼だけれど――いやそれよりも、折れた足を手入れしないことにはどうしようもないのだけれど。 「年は、十六歳、で。この森より南にある、エルフィリアの村の出身です。エルフィリアの村、わかりますか?昔から、エルフの一族だけが住んでいる村なんですけど」 「もちろん、知っているとも。人口二千人ばかりの小さな村だったはずだ。カキツバタベリーと、ベリーの染料を使った絨毯が特産品となっていたはずだね。それとエリフの種族は寿命は人間とあまり変わらなくて、精々人生は百年程度、であったかな。十六歳となるとまだ未成年だ。よく、ここまで辿り着いたものだね」 「あ、ありがとうございます……」  可愛らしい少年にそのように褒められるのは、なんだか照れてしまう。頭をかいていると、それよりも、と彼がテーブルの上におかれたティーカップを押しやってきた。  さきほど入れて貰った紅茶だ。ほのかにレモンの香りがしている。いただきます、とカップを手に取るマナ。一口飲んだ途端気づいた。全身に染みわたる独特の魔力の気配。もしや、これは。 「……ひょっとして、マジックティーですか?」 「その通り」  クインはにっこりと微笑んで言った。
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