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勇者にはチートスキルがあるし、感謝もある。果たして、そのようなぶしつけな質問をしたり、約束を破って中に乗り込んでいっていいものか。年配の者であればあるほど勇者の力を知っているため、誰もが尻込みをしていたのだった。
でも。
――もう、一週間も過ぎてる。お姉ちゃんが無事かどうかなんてわからないのに……!
マナは、決意した。
実は会場の建物は、万が一の時のための地下シェルターと繋がっているのだ。かつて魔王が世界征服を目論んだ時、身を護るために急ピッチで建築されたものであるという。
実際この村は魔王の手の者に直接襲われることはなかったので、使われるような事態にならなかったが。設備自体は、今も生きているはずだった。
地下道は様々な家、公民館やお店から地下通路を通っていけるようになっている。裏を返せば地下道を通じて、会場に乗り込むことも可能であるはずだ。
――みんなが頼りにならないなら、私が一人でもお姉ちゃんを助けるしかない!
同じことを考えていたのは、マナだけではなかったようだ。マナの婚約者であるコルト。夜、公民館に忍び込もうとしていたマナは、同じく地下道を利用しようとしていたコルトと遭遇することになったのである。
『マナ、此処から先は危険だ。確かに君は優れた魔法の腕があるが……それでもか弱い女性に過ぎない。オレアは俺が必ず助ける。だから君は……』
『嫌です、義兄さん。私も、お姉ちゃんを助けるんです。もう決めたんですから』
それに、魔法の腕だけで言うならば自分の方がコルトより上だ。ついでに言うなら、エルフの一族は男性であっても細身で華奢な者が多く、コルトもその例に漏れない。力技で姉を取り戻すのはきっと難しいはず。ならば、自分の力だって必要なはずだ。
マナの説得に、最終的にコルトが折れた。そして、彼はマナに絶対無理をしないようにと何度も強く言い聞かせた上で、共に姉たちを助けにいくことを了承してくれたのである。
もっと早く行動を起こせば良かった。今そんなことを言っても詮無きことである。後悔や反省は、事件が解決してからすればいいことだ。
――助ける、絶対。……もし、本当に何も悪いことが起きてないなら、誤解だったら、その時勇者様に謝ればいんだから……!
この時点ではまだ、事件が事件であるという確証はどこにもなかった。彼等が一週間、熱心にゲームに興じてしまっているだけだとか。あるいは女性達が本当に勇者様に惚れてしまってちょっと暴走してしまって一週間離してくれなかっただけとか。そういう可能性だって、ゼロではなかったのである。
だが。地下道を通って会場の大広間の下へ近づいていくと、次第に妙なものが聞こえるようになってきたのだ。
そう、それは――人の、悲鳴。
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