<3・轍鮒の急。>

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『ぎゅ、ぎゅうううううううううううううううううううううううううううううう、ううううううううううううううううううう、うううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううっ!』 『げえ、があああ、ああああ、うううううううううううっ』 『いだい、いだいいいい、ううううううう、うううううううううううううううううううっ』  そしてそれに混じって聞こえる、機械がういんういんと動くような音。それから、男の怒声と、笑うような声。 『おいおいおいおい、もっともっと頑張って悲鳴上げてくれよ。一番でかい声でたくさん叫んだ奴を解放してやるって言ってんだろ?俺ぁ、悲鳴が大きい方がイケるんだよ。ぐへへへへ、おらおらおらおら、もっと泣き叫べ、おらおら、でないと……』 『ぎゅううううううううううううううううううううううううううううううううううう!』 『腸握りつぶしちまうぞ、おら。げへへへへ、おう、腸壁が破れて、中身が出てきたなあ。くせえくせえ、クソの臭いだぜ』  何をしているのか。ちらっと漏れ聞こえた会話だけでも、嫌な予感しかしない。  地下道は、大広間の隅へ続いているはずだった。通路の突き当り、この梯子を上っていけば到着できるはず。入口に鍵はかかっていないから、マンホールのようになっている蓋を持ち上げるだけで脱出できるはずだ。 『私、先に行きます』 『あ、ま、待て、マナちゃん!』  心臓が、ばくばくと五月蝿く鳴っている。梯子を上るにつれ、悲鳴だけではないものも感じるようになってきた。それは、濃い血の臭い。ただの血ではない。もっと腐ったような、肉の臭い。それから排泄物の臭いや吐瀉物の臭いも混じっているような気がする。  汗で滑る手で梯子を掴み、コルトの制止もきかずにどんどん先へ登っていく。そして、地上へ続く蓋を押し上げたその瞬間。 「―――――っ!」  鼻孔を突き刺すような血肉の臭い。思わず口を押えて、こみあげてくるものを抑えた。  なんだろう、これは。ここでは美味しい食事と、パーティをしているだけのはず。なんでこんな、死体安置所でもしないような吐き気を催す臭いがするのだろう。  刺激臭で目に涙が浮かぶ。吐き気をこらえながら首を出し、そっと地下から這い出したマナは絶句したのだった。 「な、なに、これ……」  大広間には、いくつものテーブルが設置されている。会議室としても使えるよう、テーブルの形状は長方形だ。長方形の小さなテーブルを状況に置いて配置換えすることで、大きなテーブルを作ることも、時に講義室のように並べて使うことも可能になっているわけである。  今、そのテーブルの上に並べられているのは食べ物でもなければ教材でもなかった。  女性だ。
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