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<4・地獄の一丁目。>
確かに、エルフの肉は不老長寿の妙薬になる、なんて迷信があるのは知っている。
しかし人間でも、魔族でさえも実行しようとする者は稀だ。理由は単純明快、その行為があまりにも残酷極まりないからである。
もしエルフがおぞましい怪物の姿をした種族ならば、乱獲されていたこともあるのかもしれなかった。しかし実際は人間や魔族とそっくりな人型をしており、言葉もきちんと通じる知性ある生命体である。しかも、しっかりと効果を得るためには“意識がある状態で、生きたまま肉を剥がさないといけない”なんて言われているのだ。流石にそこまでの行いを出来る者はそうそういない。大体、この迷信を本当だと信じている者自体が稀である。
まさか、まさか、まさか。
勇者がそれを真に受けて、エルフたちを生きたまま調理して殺していたなんて――どうして想像ができるだろう?しかも、彼と敵対していたわけではない。あくまでこの村のエルフたちは、勇者である彼を歓迎して宴を催し、御馳走を振る舞おうとしていただけだというのに。
――信じられない、信じたくない。これは本当に……現実なの?
『あああ、ぐううううう、うううううううう!』
女性の腹がばっくりと真横に引き裂かれていく。――医療の心得がある人間ならば絶対やらないような切り方だ。否、そもそも勇者は彼女らを生かして帰すつもりなどないから何も問題ないのかもしれないが。
『すげえよなあ、内臓って。日本にいた時、学校で習ったけど……理科の教科書まんまなんだな。つか、エルフも人間と内臓の配置とかは変わらねえのか。ふんふん』
『うぎゅ、ぎゅううううううううううっ!やべて、やべ、あだ、あだじのおなかのなか、出さない、でっ』
『ばーか、出さないと喰えねえだろ。あんたももう大人なんだし、これくらい我慢しろよー。なーんちゃって』
『いやあああああああああああああああああ!もう、もうだべられだぐない、いだいのいや、いや、いやああああああああああああああああああ!』
もはや、まともな精神を保つことさえ難しいのだろう。当然だ、生きたままふとももの肉を切り取られ、それだけでも死にそうなほど痛いだろうに。その状態で、さらにお腹まで切り裂かれているのだる。
すぐ隣のテーブルの女性も同じようにして殺されたのだろう。そちらの女性は大きく口を開けて舌をちきだしたまま、びくびくと白目をむいて痙攣していた。ひょっとしてまだ生きているのかもしれない――お腹の中身が溢れて、テーブルの下まで零れ落ちているというのに。
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