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「君が手足の怪我を治療できずにいるのは、魔力が枯渇してしまっているからだろう?ならば、まず魔力を回復させたまえ。そうすれば自力である程度治療ができるようになるはずだ。生憎、僕は回復魔法がそこまで得意ではなくてね。薬ならば用意できるが、君達エルフの体質を考えるならば魔法で治すのがもっとも早道と考えた。どうだろうか。少なくとも足の骨くらいはすぐにくっつくだろうさ」
「感謝します」
どうやら少し話しただけ、ちょっと動いただけですぐ見抜かれたらしい。彼が人間かどうかはだいぶ怪しいところだが、エルフの体質によっては人間の薬が効かなかったり、逆に毒になってしまうこともあると聞いている。ならば、大人しく自力で回復させた方がいいだろう。
紅茶を飲んで、手足に回復魔法をかければだいぶ落ち着いた。痛みがひけば、多少心穏やかに経緯を話すこともできるというものだ。何も言わず、黙ってこちらの復活を待っていてくれるクインには感謝する他ない。
「この小屋にもお風呂はありますよ。汗と泥が気持ち悪かったら、先にそちらを使っていただいても構いませんが」
「……大丈夫です。お気遣いいただいて、すみません」
どうやらこちらの考えは全てお見通しらしい。まだ恐怖や痛み、苦痛の記憶が残っている。でもさっきまでとは違い、ろくに話もできないほどではない。
空になった白いティーカップを見つめて、マナはついに切り出したのだった。
「私が此処に来た時点で、用件はおおよそ想像がついてらっしゃる、と思います。私は……私は貴方に、勇者狩りをしていただきたくてこちらにお伺いしました」
テーブルの上。握りしめた拳がかたかたと震える。恐怖と、それから同じだけの怒りで。
「私達エルフィリアの村には、勇者が来ています。かつて魔王を倒すために戦った勇者たちの一人です。その男が……村で、とんでもない暴挙を働いているのです。勇者は法律で裁くこともできませんし、チートスキルを持っているせいで歯向かうこともできません。でも、私は……」
あの男の高笑いを思い出す。
血に染まった醜悪な顔を、仲間たちの苦痛の声を。
「私は、いくら世界を救った英雄だろうとなんだろうと……あいつを許すことができない。お願いします、クインさん。あいつを……勇者アガネを、どうか殺してくださいませんか」
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