<2・自慢の糞は犬も食わぬ。>

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<2・自慢の糞は犬も食わぬ。>

 最終的に勇者が何人いるのか、それはマナも知らないことだった。確かなことは、マナがとても小さな頃、その勇者たちによって魔王が討伐されたということ。魔王が倒された、世界に平和が戻ってきたと多くの大人達が喜んでいたということだけだ。  だから勇者というのはきっと、素晴らしい人格者で、世界を救う気概に満ちた者達だとばかり思っていたのである。 『勇者って、どういう存在なんでしょうか?』  エルフィリア。大昔からエルフたちの故郷の一つとして知られる小さな村だ。家族は両親に祖父母、姉が四人、兄が一人。マナは大家族の一番末っ子というわけである。年上の人に接することが多かったからか、自然と丁寧語で喋る癖がついて言ったように思う。 『世界を救ってくれた、っていうのは知ってます。でも、どういう人達なのか、ニュースでもあんまり出てこないんですよね。ほんの一部の人だけ写真とか出ていたし、インタビューもされていたみたいですけど』 『まあ、勇者っていうのも、いろいろあるみたいだからねえ』  一番仲良しだった一番上の姉のオレア。長身に豊満な胸、きゅっとくびれた腰のモデル体型の美女だった。エルフ特有の長い銀髪も、マナのそれよりずっと艶やかでキラキラ輝いていたように思う。  今年で二十二になる彼女は、同じエリフの男性との結婚が決まっていた。式場の都合もあって結婚式は遅れていたが、半年後には村の教会で式を挙げ、そのまま二人での生活を始めることになっていたのである。  大好きな姉と離れて暮らすことになるのはとても寂しい。でも、姉が愛する人を見つけて幸せになるのはとても良いことだ。マナは彼女を笑顔で送り出すことを決めていたのだった。  そう、そんなある日の昼下がりである。  勇者とはなんぞや?と問いかけるマナに、オレアはそう答えたのだった。 『勇者っていうのは、別の世界から呼ばれてきた人みたいなの。勇者としての適性がどういうものか、お姉ちゃんにもわからないんだけどね。中には、人と関わるのが苦手だった人もいるみたいなのよ。そういう人はテレビに映ったり、インタビューを受けるようなのは苦手なんでしょう』 『よその世界から呼ばれてきたのに、この世界のことを助けてくれたんですか?』 『ええ、そうね。女神様に頼まれたというのもあるでしょうけど……この世界を魔王から守るため、命を賭けて戦ってくれたこと、私達は感謝しないといけないわね。女神様は魔王を倒したあとは元の世界に戻れるようにしてくれたそうだけど、その中でもほとんどの勇者様はこの世界に残って、復興などを手伝ってくれているそうよ。ありがたい話ね』 『へえ……』  新聞には、メンバーの中でも中心核になっていたという三人の男女の写真が写っていた。
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