<2・自慢の糞は犬も食わぬ。>

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 美しい大人の女性。凛々しい大人の男性。それから、まだ幼いように見える少年。テレビのインタビューでも、この三人が映ることが非常に多かった。  彼等はメディアで問われるたび、このようなことを言っていたように思う。 『僕達は、元居た世界で自分の価値を信じられなくなっていました。自分達が、世界の役に立てる存在だとはまったく思えなくなっていたのです。ですが、この世界に呼ばれて、女神様に素敵な容姿と能力を頂けて、生まれ変わることができました。僕達は女神様と、僕達を歓迎してくれたこの世界に心から感謝しているのです。……だから、この世界に恩返しをするため、力の限り努力するのは当然のことなのです』  なんて心の綺麗な人なんだろうと、そう思っていた。  彼等は勇者の証である装飾品をつけている。女神様の加護を受けた者の証である、星の宝石が埋め込まれたブレスレットやネックレスだ。インタビューでそうこたえていた美貌の青年は、額に星の宝石を埋め込んだティアラのようなものを身に着けていた。 『……私もいつか会えますか?勇者様に』  私の問に、オレアはにこにこ笑って答えたのだった。 『ええ、もちろん。きっといつか会えるわ。あったらたくさんたくさん、感謝の言葉を伝えなきゃね……』  魔王の治世がどのようなものだったのかについては、幼かったマナは覚えていないのでよく知らない。姉は覚えているだろうが、幸運にもエルフィリアの村は辺境の土地にあったこともあって影響が少なかったのだ。  だから建物が壊されるとか、人が殺されるとか、略奪されるなんて被害はなかった。  ただ隣の町が破壊されて物流が滞るとか、そういう間接的な影響があっただけだ。だから実際、魔王と呼ばれる存在がどんな人物で、どれほど恐ろしかったか、世界が危なかったかはいまいちピンときていなかったのである。  それでも無関係の世界を生きていた人がこの世界に召喚され、にも関わらず命を賭けて戦ってくれたその心がどれほど貴いものかはわかっているつもりだ。  いつかこの世界に残った勇者たちがエルフィリアを訪れたら、自分に出来る限りの歓迎をしようと思っていた。それが、命を救われた自分達にできる、唯一無二の報恩であるからと。 ――勇者様。会ってみたいな。どんな人達なんだろうな。  いつか来るかもしれない邂逅に、マナは心を躍らせていたのである。きっとオレアも、他の家族や村人たちもきっとそうだっただろう。  ゆえに。  その男が現れた時も、誰も彼も一切警戒などしなかったのである。 『みんな、来てくれ!勇者が……勇者様が、この村に来てくださったぞ!』  村の男の一人が、そう言って声を上げた。隣町から馬車に乗って現れたのは、紛れもない勇者の証、星の宝石を埋め込んだブレスレットを身に着けた中年の男だったのである。
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