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<3・轍鮒の急。>
一体、会場で何が行われているのだろう。
パーティ会場は大きな音楽などを流してもいいように、しっかりとした防音設備になっている。春夏秋冬で気温の差が激しい地域なので、窓も冬場はしっかり断熱ができるように大きな雨戸がついているのだった。つまり、それを閉め切られてしまうと中の様子はまったく確認できなくなってしまうのである。
わかっているのは、入口で時折“給仕役”や“コック”の女性が出てきて、頼んでいた食材を運び込んでいるということだけ。その女性達の顔が、日に日にやつれていくということだけだった。
『確かに、あの会場にはキッチンもあるし、トイレや風呂、ベッドも完備されている。その気になれば宿泊施設としても使えるわけで、あそこだけでしばし生活することも十分可能だが』
一周間も過ぎるころになれば、皆おかしいと思うようになっていた。
何故、物資の運搬以外で人が出てこないのだろう。
勇者本人は中に引っ込んだまま、他の女性達も音沙汰なし。一体中で何をしているというのだろう。
『さすがに心配になってくるな。……自分が満足したらこの村を出ていくから、それまで絶対中を覗くなということじゃったが』
『そうね。いくらなんでも、私達に何も言わないのはおかしいわ』
段々、村長夫妻も不安になってきたようだった。
彼等は他の村人たち以上に、勇者に恩恵を感じていたはず。なんせマナと違い、魔王が支配した世界をしっかりその目で見たはずなのだから。
ゆえに、勇者に感謝するべきだし、逆らうなんてもってのほかだと考えていたことだろう。しかし、中に入った十何人もの女性のほとんどが出てこないというのは流石に奇妙である。物資の運搬で外に出てくる女性達も明らかに顔色が悪いから尚更に。
『……ねえ』
マナはみんなの顔を見回して言ったのだった。
『お姉ちゃんたち、酷いことをされてるってことはないんですか?だってあの勇者様、とても好色そうでしたし……』
自分で言ってぞっとした。
姉のオレアは、妹の贔屓目を抜きにしても美しく、グラマラスな女性だ。男性ならば食指が動いてもおかしくはないだろう。他の女性達も、美しい女性が殆どだったわけである。
あの男の言動といい、姉たちは中で乱交パーティでもさせられているのではなかろうか。考えただけで寒気がした。姉には婚約者がいる。貞淑な彼女は結婚式をあげるまでは、愛する人とさえそういったことを控えていたはずだ。
それがもし、外から来た勇者を名乗るあのような男に穢されているのだとしたら。
『そ、それは……』
可能性がないわけではない。むしろ、その可能性は非常に高い。誰もが口をつぐんだ。
あくまで自分達は、彼を歓迎する目的で美しい女性達を傍につけていたにすぎない。そのような性的な暴力を許容した覚えなど誰もないはずだ。しかし。
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