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プロローグ
明日、結婚式を挙げる君へ。
突然の手紙に戸惑っているかもしれないね。
もしかしたら、こんなに長いと、読むのが面倒だって怒ってるかもね。
君のむっとした顔すら、懐かしいな。
でも、笑った顔の方が、僕は好きだから。
せっかくの晴れの日なんだから、結婚式では笑っていて欲しい。
たとえ、この手紙を読んでどんな気持ちになったとしても。
たとえ、もう二度と、僕とは会わないのだとしても。
きっと君は、この手紙を読んだらショックを受けると思う。傷付くのかもしれない。
僕も、これを君に伝えるべきなのか悩んだ。僕自身、書くことが辛い箇所もいっぱいあった。
それでも、君には知っておいて欲しいんだ。
僕の想いも、僕から美宇(みう)という人間がどう見えていたかも。
だから、どうか最後まで読んで欲しいな。
さて、何から書こうかな。
そうだな。
やっぱり全ての始まり――僕と美宇が出会った日のことから振り返ろうか。
長い手紙になってしまうけど、どうか容赦して欲しい。
********************
ここまで書いて、僕は筆を置いた。
手が小刻みに震えている。
手紙を書こうと決意したものの、まだ迷いはある。彼女がこの家からいなくなって久しい。今更、こんなことを伝える必要があるのか。
それに、痺れるほどに幸福だったあの日々を思い出そうとすると、やっぱり疼痛が頭に走る。僕の弱さゆえだと苦々しく笑って、僕は回想の世界に身を揺蕩えていった。
あの時、僕はまだ二十七歳だった。
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