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撮影前の事件
このシーンの撮影前、私のメンタルはボロボロだった。
2年付き合っている彼氏が信じられなくなって、もう別れようか? と悩んでいた。
同じ業界にいる彼は私よりも有名で、才能もあり、芸能界で浮名を流している。
でも、帰ってくるのは私のところ、そう信じていた。
その彼の熱愛報道が、昨日発売の写真週刊誌に掲載された。
私との関係はなんだったの?
私の方が遊びだったの?
昨日から、彼からの連絡も無視して今日の撮影に挑んだ。
私は女優。
プライベートと仕事は切り離すのよ。
リテイクに向けて、深く私の内面に問いかけた。
この役の女性のひたむきな愛、恋人への狂おしいほどの情念、そしてやさしさ。
私の消えてしまいそうな愛、恋人への不信感、そして悲しみ。
この女性は、恋人と別れてしまって後悔はないの?
私は……?
彼との思い出が、心の中を駆け巡る。
楽しかった日々、ケンカしたこと、愛しい彼の腕に抱かれ夢を語りあった夜。
マスコミの前ではいつも険しい顔をしているのに、本当は優しくて涙もろいこと、誰も知らない彼のくしゃくしゃな笑顔、なんでもポケットに無造作に入れる癖。
愛してる。愛してる。愛してる。
別れたくない。
私と役がシンクロした。
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