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2 The First Day at Work
六月。
初出勤の日。その人は辿り着いた私を迎えてくれ、右も左も分からない私を、丁寧に案内してくれた。少し過保護かなとも思ったが、嫌な感じはしなかった。
「緊張してる?」
そのなかで不意にかけられた言葉。マスクで口元は見えないが、目元に皺が浮かんでいたので、笑っているのが分かった。
その後は作業を覚えるのに追われ、その人も他に仕事を抱えている様子で、首から下げている携帯で電話をしたり、事務所でパソコンをいじっていた。そのときはそれほど気になってはいなかったから、淡々と時間は経っていった。
「お疲れ様でした。またよろしくね」
お疲れ様ですと返し、初日の勤務を終えた。
それから何日か働き、時折その人から
「大丈夫?」
と声をかけられることが多くあることに気付いた。何を心配しているのか、私の仕事内容に不満でもあるのかと、訝んだ。
ある日のこと。現場作業が一段落し、手が空いた旨を伝えると、
「それじゃあ、少し事務をやってみようか?」
以前勤めていた場所でもやっていたし、聞けばそれほど大した内容でもなかったので、はいと応え、いつもその人が座っている事務所の椅子に座った。
その人は隣にパイプ椅子を持ってきて座った。面接の時に座った椅子だなぁなどと思う。
戸惑いながらも、その人は一つひとつ丁寧に教えてくれる。私がメモを取っていると、説明を止め、書き終わるのを待っててくれる。
「いい? 次行っても」
そうやって私はパソコンの画面を見つめ、左からその人の声を聞くという状況に慣れていった。
ひととおりの説明が終わって、私は無言で作業する。その人はと言えば、私の左側に黙って座っている。ふと気になり、チラリとその人を見る。目をつむり、腕組みをして微動だにしない。疲れているのだろう。毎日早番から夕方までだそうだし、新人である私の教育もほぼ一人でまかなっている。
「うん? 何か分からないところあった?」
あ、いえと少し慌てて画面に視線を戻す。
寝ていた訳ではなかったのかなと思い、なぜそこに居座り続けるのか、いや特に嫌ではないのだか、少し気まずさを感じていた。
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