4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「大丈夫っすよ!まだ間に合いますって!」
「間に合わなくて大丈夫じゃないのは君だからね?」
日を跨いだところで建設的な話をして、とにかく今日は解散となった。
「とにかく年末までにこのデータ出しちゃえば、帰宅遅くならずに済むでしょ?年明け2月に君の結婚式。6月の学会で発表。9月までにビボやって論文。海外誌通れば卒業の条件クリア。博士おめでとう」
「…………えー、ねー動物。やっぱやらなきゃです?」
ホンットにこの後輩君は、自分の事なのに。
「一ヶ月ズレたね?今回」
「……うぇい…」
「計画表。単純に一ヶ月後ろ倒しすると、動物実験やる辺りで、ウチの出産予定日に、なるね?」
「そのいーかたズルいすよぉ」
「まぁ年末までにビトロ終わらせちゃえば圧したりしないけどさ?動物実験やりたくないっつーなら、僕の方がよっぽどやりたくないの、分かるね?」
「すいません…」
「その僕がやらなきゃっつってんなら、やらなきゃだね?」
「すいませんてば。もう言いませんよ」
まぁこれもパワハラっちゃそうなのかもしれない。
が、こんなに僕がイライラする理由も、後輩君は確かに理解しているはずなのだ。
ウチの大学院生の卒業論文は、名前を載せる人数が三人と決められている。
筆頭著者である後輩君は名前を載せないと卒業出来ない。まぁこれは当然である。
ウチの教授も、当然。
そして、残る一枠。
研究に多大なる助力を頂いている、理工学の教授の名前を載せなければならない。
つまり真にパワハラを受けているのは、他でもない僕である。
後輩君がどうなろうが、僕にはメリットもデメリットもないのだ。名前載らないんだから、何の実績にもならない。
僕が後輩君に協力しているのは、単に僕が大学院生の頃に、先輩達から同じように助けられたからである。
本当に、ただただ、そういうものなのだ。
「あ、例えばなんすけど…」
「なにさ?」
「動物実験の日が、出産日だったらどーします?」
「やな事言わないでよ。実験するよ」
「えー?オレだったら嫁さんとこ行っちゃうな〜」
「やな事いうなっつーの。見捨てるぞ」
「見捨てて下さいよ」
何言ってんだコイツと後輩君の顔をみると、意外な事に真面目な顔をしていた。
「やっと出来たガキじゃないすか。一人で何とかしますんで、オレ。そんで、そんでもダメだったら、大人しく留年しますよ」
「…………………」
「悩んでたじゃないすか」
「…………………はぁ…」
やなやつ。
「重ならないようにしてくれ。大体君も直ぐ結婚式だろ?」
「うす、もう延ばしません。今日は本当にすいませんでした」
「いーよ」
これだから体育会系は。
何とか当日、何の憂いもなく花嫁の下へ送り届けなければ、なんて。
「明日からまた頑張ろう、おやすみ」
「うす!失礼します!」
扱い辛いんだからなぁ、もう。
最初のコメントを投稿しよう!