誤り: 2023年10月某日

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「大丈夫っすよ!まだ間に合いますって!」 「間に合わなくて大丈夫じゃないのは君だからね?」  日を跨いだところで建設的な話をして、とにかく今日は解散となった。 「とにかく年末までにこのデータ出しちゃえば、帰宅遅くならずに済むでしょ?年明け2月に君の結婚式。6月の学会で発表。9月までにビボやって論文。海外誌通れば卒業の条件クリア。博士おめでとう」 「…………えー、ねー動物。やっぱやらなきゃです?」  ホンットにこの後輩君は、自分の事なのに。 「一ヶ月ズレたね?今回」 「……うぇい…」 「計画表。単純に一ヶ月後ろ倒しすると、動物実験やる辺りで、ウチの出産予定日に、なるね?」 「そのいーかたズルいすよぉ」 「まぁ年末までにビトロ終わらせちゃえば圧したりしないけどさ?動物実験やりたくないっつーなら、僕の方がよっぽどやりたくないの、分かるね?」 「すいません…」 「その僕がやらなきゃっつってんなら、やらなきゃだね?」 「すいませんてば。もう言いませんよ」  まぁこれもパワハラっちゃそうなのかもしれない。  が、こんなに僕がイライラする理由も、後輩君は確かに理解しているはずなのだ。  ウチの大学院生の卒業論文は、名前を載せる人数が三人と決められている。  筆頭著者である後輩君は名前を載せないと卒業出来ない。まぁこれは当然である。  ウチの教授も、当然。  そして、残る一枠。  研究に多大なる助力を頂いている、理工学の教授の名前を載せなければならない。  つまり真にパワハラを受けているのは、他でもない僕である。  後輩君がどうなろうが、僕にはメリットもデメリットもないのだ。名前載らないんだから、何の実績にもならない。  僕が後輩君に協力しているのは、単に僕が大学院生の頃に、先輩達から同じように助けられたからである。  本当に、ただただ、そういうものなのだ。 「あ、例えばなんすけど…」 「なにさ?」 「動物実験の日が、出産日だったらどーします?」 「やな事言わないでよ。実験するよ」 「えー?オレだったら嫁さんとこ行っちゃうな〜」 「やな事いうなっつーの。見捨てるぞ」 「見捨てて下さいよ」  何言ってんだコイツと後輩君の顔をみると、意外な事に真面目な顔をしていた。 「やっと出来たガキじゃないすか。一人で何とかしますんで、オレ。そんで、そんでもダメだったら、大人しく留年しますよ」 「…………………」 「悩んでたじゃないすか」 「…………………はぁ…」  やなやつ。 「重ならないようにしてくれ。大体君も直ぐ結婚式だろ?」 「うす、もう延ばしません。今日は本当にすいませんでした」 「いーよ」  これだから体育会系は。  何とか当日、何の憂いもなく花嫁の下へ送り届けなければ、なんて。 「明日からまた頑張ろう、おやすみ」 「うす!失礼します!」  扱い辛いんだからなぁ、もう。
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