132人が本棚に入れています
本棚に追加
一方で、頭の片隅には冷静な私も存在していた。
だけど…、冷静なはずなのに…。
「応えてみれば?」なんて、そそのかすのは悪い自分。
そそのかされるのは、きっと…、良い子の振りをした自分に違いない。
体温を分かち合い、既に同じ温度になった二人の掌は一方的に重ねられて絡み合う。
―――相手は手練れたクズ男。
どうせ弄ばれるのなら、一矢報いたいと思った。
だから…、これはほんの出来心。
重なり合った手に、力を込める。
ぎゅっと。
握り返してみる。
彼を見つめる。
眼差しに熱を込めて。
彼の瞳の奥が揺れた気がした。
気がした…のは、次の瞬間、私を見つめ返した中條君が、何かを悟ったような笑みを浮かべていたからで――――…。
最初のコメントを投稿しよう!