2 翌朝の失態

13/13
前へ
/188ページ
次へ
見透かされているような瞳に誘われて、思わず飛び出てしまいそうだった言葉を喉元で飲み込んだ。 だって、そんなの…、言えるわけないじゃない!?? 彼の言葉に意図されたそれを、こんなオフィスのど真ん中で。 しかも、自分から切り出す勇気も非常識さもあるわけがない。 何も言えず、ただひたすらに目線を泳がせていると……、 佐原さん…と。 ゆるやかに口端が上がり、雄々しくも、妖艶に微笑んだ表情に魅せられる。 「俺、逃げられたの、初めてだわ」 だから、覚悟しといて―――。 形の良い唇から、ゆるりと落とされ、鼓膜に触れて浸透する。 非常に不本意だ…。 だから、苦手なのよ…。 与えられた衝撃は、私の胸の深いところに見えない痕を残していく…。 理性的に言うならば、後ろめたさと共にあるのは、恐れ、嫌悪、拒絶。どれもこの男を遠ざけるものばかり。 ただし、感覚的なものは裏腹で。 おそらく……、おそらく、ではあるけれど。 どういうわけか…、そこに混在するものは、絡みつくような柔らかな心地よさだった―――――…。 《2章 翌朝の失態》
/188ページ

最初のコメントを投稿しよう!

136人が本棚に入れています
本棚に追加