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見透かされているような瞳に誘われて、思わず飛び出てしまいそうだった言葉を喉元で飲み込んだ。
だって、そんなの…、言えるわけないじゃない!??
彼の言葉に意図されたそれを、こんなオフィスのど真ん中で。
しかも、自分から切り出す勇気も非常識さもあるわけがない。
何も言えず、ただひたすらに目線を泳がせていると……、
佐原さん…と。
ゆるやかに口端が上がり、雄々しくも、妖艶に微笑んだ表情に魅せられる。
「俺、逃げられたの、初めてだわ」
だから、覚悟しといて―――。
形の良い唇から、ゆるりと落とされ、鼓膜に触れて浸透する。
非常に不本意だ…。
だから、苦手なのよ…。
与えられた衝撃は、私の胸の深いところに見えない痕を残していく…。
理性的に言うならば、後ろめたさと共にあるのは、恐れ、嫌悪、拒絶。どれもこの男を遠ざけるものばかり。
ただし、感覚的なものは裏腹で。
おそらく……、おそらく、ではあるけれど。
どういうわけか…、そこに混在するものは、絡みつくような柔らかな心地よさだった―――――…。
《2章 翌朝の失態》
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