1.藤吉という童

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1.藤吉という童

 とんとむかし。  出羽(でわ)の山々に囲まれた小さな村に、藤吉(とうきち)という(わらす)が住んでおりました。  年の頃は、十五。  その頃の十五と言えば立派な働き手、さりとて藤吉の苦労を並みのものとは言えぬでしょう。  早くに二親(ふたおや)を亡くした藤吉は、残された田を懸命に(たがや)しながら、ひとりきりで暮らしていたのです。  (さび)しさには、いつしか慣れていました。  けれども朝に夕に藤吉を(さいな)む空腹には、どうしても慣れることができません。  藤吉の小さな田から取れる少ない米では、年貢を(おさ)めてしまえば残りはもうわずか。  暮らしのため少々の金に換えておくのがやっとのありさまで、己の腹を満たすものではないのです。  けれども藤吉は幼い頃から父に教えられ、山のことを知り抜いています。  野草や木の実、芋や(きのこ)や甘い果実。  藤吉は里山から奥山までも分け入り、四季折々のお山の恵みを少しずつ頂きながら、その命を(つな)いでおりました。
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