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4.庄屋の息子(2)
「お前ぇに言われなくたって、分かってるさ。そんなこたぁ」
不機嫌そうに顔を顰める田之介。
田之介なりの気遣いは、いつもこうして藤吉に跳ね除けられてしまいます。
けれども田之介には、その理由が一向に分かりません。
「藤吉よぉ。いいかげん、下らねぇ意地張るな。前から言ってるだろ? こんな小せぇ田んぼ、捨てちまって……うちの小作になりゃあいい。そのほうがずっと楽に暮らせるんだから。それとも何か、そんなに嫌なのかよ、俺の父ちゃんに……先々俺に……使われんのが」
苦労人の藤吉を楽にさせてやりたいだけなのに、どうして藤吉にはその思いが伝わらないのでしょう。
「そんなことじゃあ、ねぇよ田之介……。こんな小せぇ、田でも……こらぁおらのおっ父とおっ母がご先祖様から受け継いだ、大事な……おらの、田んぼだから……」
これじゃあまるで、俺が悪者みてぇだ。
すっかり気を悪くした田之介は、ぷい、と顔を背けます。
「なら、勝手にしろ。だけどどっちが先だろうな。日照りでお前ぇの田がすっかり駄目になんのと、雨が降んのと」
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