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5.伽耶(1)
田之介と話し込んでいるのでしょうか。
日がすっかり暮れても、藤吉はまだ家に戻りません。
伽耶は藤吉にもらった藍の着物をたたみ、そっと囲炉裏端に置きました。
どうしたことか、伽耶はここへ来た日に着ていた、白い小袖を纏っています。
やっぱり……藤吉さんが帰る前に、出て行こう。
伽耶は小さく呟きました。
「少しだけでも……藤吉さんと暮らせて、幸せだった――」
藤吉に命を助けられたあの日から、苦労して、苦労して、やっと叶った人の姿。
けれども、お山を下りてはいけなかったのです。
雨雲が消えた。
雨が止まってしまった。
それは藤吉さんの田を、壊してしまう。
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