5.伽耶(1)

1/1

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

5.伽耶(1)

 田之介と話し込んでいるのでしょうか。  日がすっかり暮れても、藤吉はまだ家に戻りません。  伽耶は藤吉にもらった(あい)の着物をたたみ、そっと囲炉裏端(いろりばた)に置きました。  どうしたことか、伽耶はここへ来た日に着ていた、白い小袖を(まと)っています。  やっぱり……藤吉さんが帰る前に、出て行こう。  伽耶は小さく(つぶや)きました。 「少しだけでも……藤吉さんと暮らせて、幸せだった――」  藤吉に命を助けられたあの日から、苦労して、苦労して、やっと叶った人の姿。  けれども、お山を下りてはいけなかったのです。  雨雲が消えた。  雨が止まってしまった。  それは藤吉さんの田を、壊してしまう。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加