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6.涙雨(2)
「まずいぞ藤吉、ため池が溢れた……! 田が、田が流れちまう……!」
慌ただしく飛び込んできた田之介が、震える手で座敷牢の鍵を開けようとしています。
「た、田が……っ?」
目を見開いた藤吉は、入り口の鍵が開けられた途端、堪らず外に飛び出しました。
雨はまるで滝のように降りそそいでいます。
藤吉は思いました。
やっぱり、伽耶が泣いているんだと。
伽耶がひとり、お山で泣いているんだと。
すると激しい雨音の狭間に、何やら耳を震わす重たい音がいたします。
「山鳴り、だ……」
藤吉と田之介は青ざめた顔を見合わせました。
お山が崩れるぞ……!
このままじゃあ、村が呑まれる…!
藤吉は山を見上げ、無我夢中で走り出します。
必死に何かを叫びながら追いかける田之介、けれども藤吉は振り返ることなく、ただ一心に駆けてゆくのです。
息もできないほどの雨が、藤吉の顔を体を激しく叩きます。
頬を流れるそれが雨なのか、涙なのか――。
もはや藤吉には、分かりませんでした。
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