2.白蛇(1)

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2.白蛇(1)

 そんなある日のこと。  藤吉がいつものように背負子(しょいこ)(かつ)ぎ、山中(さんちゅう)を歩いておりますと、すぐ近くの(やぶ)の奥から何やら猛々(たけだけ)しい鳥の羽音が聞こえてまいります。  一体(いって)ぇどうしたことだ。  藤吉は藪を掻き分け進みながら、向こうをそっと(のぞ)き込みました。    藪の向こうには、小さく(ひら)けた野原が広がります。  騒がしい羽音の主は、獰猛(どうもう)(とんび)。  その前には、小さな白蛇が倒れ伏しておりました。  白蛇は懸命に鎌首(かまくび)をもたげますが、鋭い爪や(くちばし)にやられたものか、だいぶ弱っていることが藤吉の目にも分かります。  生きた物を食さぬ鳶は、白蛇を(なぶ)り、命が尽きるのを待っているのでしょう。  無慈悲(むじひ)な爪で白蛇を(つか)み上げては、舞い上がった中空から固い地面に叩きつけるのです。  白蛇を哀れに思った藤吉は、背中の背負子(しょいこ)から大きな山鼠(やまねずみ)の死骸を(つか)み出しました。  こんなものでも食えるだろうかと、半分怪しみながら拾い上げた獲物でしたから、(もと)よりさほどの未練(みれん)もございません。  藤吉は迷わず鳶に向かい、ひょい、と山鼠を投げたのです。
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